プリント&プロモーション―デジタルプリントの専門サイト――

【この人に聞きたい!】「デジタルマイクロファクトリー構想」って何⁉ リコー 執行役員 IP事業本部 森田哲也 事業本部長

【2019年11月25日】リコーは今年4月、「デジタルマイクロファクトリー(DMF)構想」を発表した。
この構想は、デジタルプリントによる新たなサプライチェーンの構築を目指したもので、テキスタイル、アパレル業界が持つ課題を解決する試みになるという。

今回は、リコー 執行役員 IP事業本部 事業本部長の森田哲也氏に、この新たな取り組みについて話を聞いた。

 

取り組みのきっかけ

――なぜこのような取り組みを始められたのですか
ここには一つの大きな社会問題があるからです。
アパレル・テキスタイル業界で使われる生地のアナログ捺染の排水により、水質汚染の20%が繊維業界の中から生まれています。世界の廃棄物のうち、約5%がテキスタイル関連と言われています。
こうした問題を解決したいというのが、このコンソーシアムを発足したきっかけです。

――なぜそのようなことになっているのでしょうか
アパレル・テキスタイル業界には、「生地の捺染~裁断~縫製~販売」まで、これを「川上~川中~川下」と分けているのですが、ここにさまざまな課題があります。

捺染での環境対応やコスト削減へのニーズの拡大、裁断や縫製における労働力不足などがあります。特に裁断や縫製は、中国や東南アジアなどで行うことが多いのですが、安価な労働力のある新興国で作ることにより、大量生産が加速し、これが過剰在庫につながっています。

そして、大量在庫で売れ残った商品が廃棄につながります。また、環境に関するルールが整備されていない地域で作ることにより、捺染による水質汚染につながってしまいます。
SDGsが叫ばれ、企業が社会課題の解決への貢献を求められるなか、テキスタイル業界はこの問題を避けて通れません。
そこで、先進的なデザイナーさんの間では、「テキスタイルは地産地消であるべき」という意見が出てきました。

――テキスタイルの地産地消とは初耳です
大量生産して、これを流通し、商品が売られ、大量に廃棄される。その流れは食品も繊維産業も同じです。これが地産地消であれば、必要な分をオーダーしてもらい、その分だけ作り、これを着るという流れができるのです。
ここに我々が提唱する「デジタルマイクロファクトリー」が活用できるのです。

 

デジタルマイクロファクトリーとは

――デジタルマイクロファクトリーについて具体的にお教えください
簡単に言えば、デジタルプリントの技術を使って、小規模でありながらスムーズに、生地染色から、裁断、縫製、仕上げ、そして販売流通までのバリューチェーンをコンパクトに構築することです。
捺染では製版をしなければならないため、1回に数百から数千mのプリントをしなければコストが合わないという実情がありました。

この「DMF構想」はバリューチェーンの変革で、リコーのデジタルプリンタをはじめ、デジタル機器を活用し、非常にコンパクトに反物を生産します。
また、アナログ捺染から流通、販売までのプロセスが非常に長いことに比べ、デジタルではスタートとフィニッシュを一気に縮められるのです。

――実現への課題は
特に裁断と縫製が課題ですね。
日本の縫製は非常にレベルの高いものです。
アパレル・テキスタイルのバリューチェーンの中で、必ず必要になるものですが、先進国ではその数が減っており、確保が非常に難しいのです。

――デジタルは少量生産できることが長所ですが、コストが高いという印象があります
売価は安くできると思います。生活者が注文のリスクを背負う「返品しない」という契約をすることで、廃棄分のコストがなくなるのです。しっかりと採寸し、必要な分だけ作り、運び、着ていただく、これが重要です。

 

実現へ 提携進める

――構想の進め方は
DMFはまず、主要市場である欧州、中国、日本で構想を進めていきたいと考えています。

リコーは、ドイツのRIPベンダーである「ColorGate Digital Output Solutions GmbH(カラーゲート社)」を買収しました。同社はワイドフォーマットプリンタ用のRIPソフトを開発・販売している会社。これによりリコーはテキスタイル関連のカラーマネジメントをしっかりとできる体制を整えました。

また、スウェーデンの「Coloreel(カラーリール社)」と協業し、テキスタイル向けインクジェットモジュールを開発しています。この会社は白糸にインクジェットで着色し、それを使い刺繍するというシステムを持っています。この会社の技術も活用できるようにします。

個別の技術では、顔料によるダイレクトデジタルプリントを普及させたいと考えています。顔料によるダイレクトプリントは、版はもちろん、紙も使わず、廃液も少なくて済むことから、非常に環境によく、バリューチェーンを縮めることに貢献できそうです。

しかし、これまで顔料によるダイレクトプリントはゴワゴワ感があり、生地の風合いが変わってしまうことから、カーテンやバッグなどでは採用されてきましたが、身につけるものでは避けられてきました。我々は、この問題を後工程、特にトリートメントの処理で、解決できると考えています。

――リコーの製品を使うというところに注力した場合に、パートナーは限られるのではないでしょうか
リコー製品を作っていただければ、もちろんありがたいですが、それは構想とは違ったものになります。機材は、テキスタイルを生産する各社、各ファクトリーが決めるもので、我々はその仕組みを整えるお手伝いをするだけです。リコーが基幹のソフトウェアの部分を開発しているので、これを活用していただくというのが理想です。
私自身、リコーのIT子会社で社長を務めていたので、そちら方面の知識には自信があります。

もちろん「ユーザーにメリットがあるからおすすめする」ので、それにふさわしいものを提供していければと思っています。当社はシステム全体も提供し運用しますし、システムの中の一つの機材を提供させていただく場合もあります。
さらにはその先のブランドオーナーや生活者とつなぐAPIも作っていければいいと思っています。

――このシステムに参加したユーザーは、分業に参加するのでしょうか。それとも全部をコンパクトに1社が行うのでしょうか
どちらの場合もあると想定しています。
テキスタイル業界は、前処理、染め、後処理の工程があり、これらが一定地域に集中していました。しかし、一部は淘汰されてしまいバリューチェーンが途切れ、近隣にそういった会社を見つけられない場合、前後も含めて自社に取り込む会社も出てきています。また、のぼり旗やユニフォームなどの製作では、昇華転写を使用し、裁断・縫製まで自社で行っている会社もあります。

一方で、離れた場所の別の会社と提携し、自社ではできない工程を分業していくことも、このシステムなら可能です。「1社で完結」「分業」、両方の在り方に貢献できることもデジタルを介したテキスタイルの取り組みの良いところでしょう。

――パートナー集めは始めているのですか
欧州や日本、中国で、数社声がけしており、実際に活用していただくよう具体的な話を進めている最中です。
また、専門学校や大学などの学術機関とも提携し、これからこのシステムを使うであろう学生さんに知っていただくような取り組みもしていきます。

――今後の展望を
デジタルプリントによるテキスタイル市場規模は、2020年に世界全体で2000億円強と言われています。
リコーでは、プレイヤーと仲間になり、この市場へ新たなリージョンのイメージを提供していければと思っています。
当社では、システム全体はもちろん、インクやヘッド、プリンタなどテキスタイルプリントを構築する技術のすべてを持っており、これを強みに構想を進めて行きます。

来年頭にはシステムをどこかで稼働させたいと思っているので、ご期待ください。
また、業界全体の声掛けしています。さまざまなハードルを超えて連携していきましょう。

 

Copyright © 2024 プリント&プロモーション . ALL Rights Reserved.