【2016年11月15日】「2016折込広告全国大会」(主催:日本新聞折込広告業協会)が11月10日、11日の両日、東京都千代田区の都市センターホテルで開催された。
「『パラダイムシフト』を考える~未来に向けたオリコミの可能性を探る~」のテーマで行われた同大会。
今回はアビームコンサルティングの本間充氏が行った基調講演「マーケティングのデジタル化とトラディショナルメディアのこれから」を紹介する。
本間氏はアビームコンサルティングのデジタルマーケティングセンターディレクターでありながら、東京大学大学院数理科学研究科の客員教授として教壇に立つなど、幅広い活躍をしている。このほか、日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の代表幹事も務める。
【関連記事】
「2016折込広告全国大会」開催 佐々木進理事長「納品日変更、部数・料金の統一」呼びかけ
レポート「2016折込広告全国大会」① 研修会:事例報告「印刷会社が取り組む地域活性ビジネス」 JAGAT藤井建人氏
レポート「2016折込広告全国大会」② 研修会:事例報告「北海道食べる通信~十勝毎日新聞社が取り組む新しい地域メディアの意義」 グリーンストーリープラス 林真由氏
トーマス・エジソンはイノベーターというイメージだが、本当は事業家だと思う
発明品ができたから事業化したというより、事業をやりたくて発明していた。
彼の会社GE(ゼネラル・エレクトリック)は電灯を使ってもらうために、小型の発電機を販売したが、のちにGEに入社したエンジニアが発電所を作ると、そこからは発電機を忘れて、電気を売るようになった。
エジソンで言えるのは自分の強みをどれだけビジネスにつなげるかということだ。
この大会のテーマ「パラダイムシフト」とは、折込を使ってイノベーションを起こすことだろう。エジソンが見せてくれた事例のように。
折込広告市場が縮小しているというが、これに関して折込業界に責任はない「無罪」だ。
お客様が変わったので、広告も変わったということだ。
私が花王に入社した1,992年当時、広告のターゲットはと聞くと「ど真ん中を狙って」と言われたものだ。
しかし、今は所得分布でいえば、一番人数が多いゾーンは所得が少ない層だが、彼らの求めるのは「ラストプライス(最安値)」の商品だから、とてもど真ん中のマーケティングなどできない。
広告主が想定した標準的な4人世帯の中流家庭というものは、今やなくなってしまっている。
しかし、広告主サイドは、このように所得分布がいびつになってしまったことを理解していない。
罪深いのは市場の変化を理解していない広告主だ。
メディアと投資金額のリサーチをみると、バナー広告は3割までしかリーチしないことが分かる。一方テレビは90%、新聞は40~50%。
実はインターネットにリーチ力はない。
では、なぜ注目が集まるのか。
今までのマス媒体は、網で100匹を取って、船上で95匹を捨てるマーケティングをしていた。
「じゃあ5匹を1本釣りする方がいいのでは?」というのがネットの考え方。
ネット広告は深くて、幅が狭い層にマーケティングができる。
新聞や折込広告はその中間にある。
折込広告は狭いエリアターゲティングができることが特長だ。
私が入社した1992年。花王は売り上げの半分を「アタック」で稼いでいた。
先輩から「お前のボーナスはアタックで出ている」と言われたものだ。
しかし、現在は「アタック」でも「抗菌」などの機能や、容量によってブランドが細分化されている。
だから、トップシェアは「アタック」だが、そのブランドの市場占有率はわずか3%とそれぞれは以前ほど大量生産されていない。
日本の企業が持つブランドは、ほぼそのようなことになっている。
シャンプーでも、お菓子でも同じような現状だ。
かつては1つのブランドが大量に売れていたため、マス媒体が重要だった。
今は広告を入れても20人に1人しか買わない商品ばかり。つまり19人はいらない商品をマスで広告しているのだ。
広告の設計を変えなければならないのに変えていない。
やはり市場縮小の罪は広告主にある。
「ハイキュー」という漫画・アニメのTwitterアカウントはフォロワーが35万人。日本の人口から考えると、市場としては微妙な数字だが、この人たちは購買意欲が非常に高い。そして、このフォロワーたちはTwitterによって「マニア」「マイナー」だと思っていた自分の趣味が、マスボリュームに達していると分かってしまった。
アタックの3%と同じで、いま日本で行われているビジネスはこんな規模。この規模のビジネスに折込広告をあてられるかを考えるのが重要だ。
よく、将来の広告を考える時に、「新たなメディアへの対応」と「人の変遷」、どちらを追いかけるべきかという話があるが、人の変遷を追いかけるべきだと考える。
20年後には赤ちゃんは購買層に、20代は会社の重要なポジションに、“痛車”に乗っている人が経営者になっているかもしれない。
間違いなく、マーケティングでは人を追いかけ、彼らがどう行動するかを考えるべきなのだ。メディアの変遷は劇的に進んでいるが、それを彼らがどう使うかが重要。
ボンジョビは米国7大都市ツアーをするときには、公演曲リストをすべて変えている。
これはインターネット配信のダウンロード数や、ソーシャルメディアでどの曲が語られているかを、エリア別に調べているからだ。
ソーシャルリスニングマネージャーという担当者がいて「ニュージャージーならこれ、テキサスならこれ」と決めている。
また、エリアごとにチケットの料金も変えている。
折込広告は地域に根付いたマーケティングができる媒体だ。
だとしたら折込で何をしたらいいのか。
お客様がどう使っているかという「カスタマーインサイト」を考えてみよう。
折り込みは、「読むもの・読まないもの」「業種」など、その場で簡単に分類可能な点が優れている。
タブレット端末で受け取る広告は、グルーピング(分類)ができない。
さて、デジタルネイティブのための折り込み広告を考えるには「10年後、自分たちがどうしたいか」を考えることが重要だ。
また、「折り込み広告の強みは何か」を真剣に考えなければならない。
それは「紙であること」なのか「新聞と一緒に来ること」なのか。
「折込広告にできて、他の広告にできないことなはなにか」も検討してみよう。
実は折込広告業はデジタル化された産業だ。
チラシ印刷のデータはデジタル、顧客のリストもデジタルだろう。
たまたま、配達するものが紙というだけ。
これらのデジタルプロセスを使って、新しい広告ができないかと考えることが重要。
ユーザーは「見たいもの」「ほしいもの」が、情報として緻密に来てほしいと思っている。
その情報がチラシであってもいいはずだ。
新しいことをすれば得るものがあると同時に失うものもあるが、既存の事業をそのままでは、得られるメリットはなにもない。
自動運転車は、「トラディショナル車×センサー×通信機器」で、既存の技術をバージョンアップさせただけ。
だから、今後は折込広告をバージョンアップさせる「New折込広告=折込×○○○」を考えよう。
そこに折込広告のパラダイムシフトが見えてくるのではないだろうか。
・広告費用に混乱がある(地域、所得で異なる)
・日本にはマスというボリュームはすでにない
・折込業界のビジネスプロセスはデジタル化されている
・メリットは何かを考えることで新しいソリューション、サービスが可能
Copyright © 2025 プリント&プロモーション . ALL Rights Reserved.