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【レポート】キヤノン インクジェット2機種を「Canon EXPO2023」に見に行く! <シリーズ デジタルプリント新春編> 

【2024年1月9日】キヤノンは昨年10月、商業用B3サイズ対応インクジェットデジタルプレスの新製品「varioPRINT iX1700」と、産業用インクジェットラベル印刷機の新製品「LabelStream(ラベルストリーム) LS2000」を発表した。
いずれも今年(2024年)の発売だが、新インクジェットヘッドや新機構の投入など、同社の力の入れ方が分かる内容だった。

発表後すぐに、同社にいくつか質問を投げたところ、「Canon EXPO2023で公開しますが、ご覧になりますか?」と丁寧なお誘いをいただいたので、訪問した。

この「Canon EXPO2023」だが、昨年10月に横浜市のパシフィコ横浜で開催された。4年に1度のイベントだがコロナ禍で、前回が中止となり8年ぶりの開催となった。
初日には御手洗冨士夫会長が基調講演を行うなど、大きな注目を集めた。

 

varioPRINT iX1700

「varioPRINT iX1700」は、新開発の長尺プリントヘッドを搭載している。解像度2,400×1,200dpi、多面付けも可能で、最大印刷速度はA4サイズで毎分170枚、B3サイズで毎分73枚。
商業用B3サイズというのは、チラシやパンフレット、カタログ、小型のポスター、ディスプレイなどの作成に向いた取り回しのいい印刷機と言った印象だ。

補正機構は、用紙の斜行と横位置のズレを同時に補正。エア給紙システムでは、給紙時に用紙の進行方向前側から空気を吹き付け、密着しやすいコート紙なども一枚ずつ搬送する。進行方向後ろ側にもファンを追加したことで、長尺用紙などサイズの大きな用紙の分離性能も向上し、安定的に用紙を搬送する。
「varioPRINT iX1700」は、冊子やカタログ、メニューなどの印刷受注を見込む。
想定価格は5,000万円(税別)。

会場で担当者に話を聞くと、同機は「高速機『varioPRINT iX3200』と『image PRESS Vシリーズ』の中間にあたるクラスと位置づけている」とのこと。
同社には電子写真方式(トナー方式)の「imagePRESS」などもあるが、違いや住み分けはどうかと質問をしたところ「インクジェットはヘッドを並べれば、印刷のサイズを変更でき、電子写真に比べ自由度が高い。電子写真は技術が成熟しており、安定感がある。それぞれの良さがあり、住み分けができる」と解説してくれた。

 

LabelStream LS2000

一方の「LabelStream LS2000」にも、新開発の長尺プリントヘッドを搭載し、解像度は2,400×1,200dpi。印刷幅は最大340mmまで対応し、多面付けでの効率的な印刷に対応する。また、最大印刷速度は毎分40m。

標準搭載の白インクは、ラベルなどで多い透明フィルムの白引きで効果を発揮する。白引きすることで透明素材にそのまま色を載せるより印刷が映える。
低温定着可能な材料を使用しているため、低耐熱フィルムへの印刷にも対応。
巻き戻しの機構もあり、ジョブチェンジなどの際に無駄になる白紙部分を巻き戻して使用できる。
「ラベルは、他の印刷物よりも少量で生産されることが多く、損紙を多く出していては利益が少なくなる。これを巻き戻しの処理でヤレ(損紙)を少なくし、ジョブを結合できればこれを防げる」と担当者は説明する。


食品包装に使われることも多いラベルだが、FDA(米国食品医薬品局)認証やEU規則などの食品安全性基準にも対応している。
この辺りは、ラベル印刷に必要な機能を研究し揃えてきたと感じる。
想定価格はこちらも5,000万円を予定している。

 

共通のシステム

両機ともに、高濃度ラテックスインクを採用。
広色域で、薄いインク層で、オフセット印刷のような紙の風合いを生かした印刷ができる。

実際、サンプルを見る機会があったが、どれも印刷の専門家でなければ、区別がつかないと感じる。
例えば「LabelStream LS2000」でプリントした瓶に貼ったラベルのサンプル。デザインの優劣は置いておいて、店舗にあってもそこまでの違和感はないはずだ。 紙のラベルでは、新ヘッドの特徴で凹凸がある物にもプリント可能。透明ラベルも見たが、従来のグラビア印刷との区別がつく一般の人はほぼいないと思う

こちらの「varioPRINT iX1700」のサンプルも、カタログやポスター風につくられていたが、オフセット印刷と見分けることは、ラベルよりも不可能と感じた。

どのデジタル印刷機でも思うのだが風合いや細かな色の違いを気にするのは、印刷会社技術者や代理店などの関係者だけではないだろうか。
「ルーペの先に利益はない」とここ数十年言われ続けていることではあるが、デジタル印刷の時代になり、余計に一般人の感覚を持つことが重要だと感じる。

両製品ともに、インク循環機構を搭載し、ノズル内のインク粘度を最適化。さらに、一定の印刷時間ごとにヘッドを自動でクリーニングし、長時間の連続印刷を可能にする。
人手不足の昨今、「メンテナンスフリー」はありがたい。後加工までも含めて、デジタル印刷機は自動化と親和性が高いことも特長だ。
ロボットアームやソーター(自動仕分け搬送機)を導入する企業も増えているが、キヤノンの今回の新製品にも期待するところが大きい。

 

発表のタイミング

発表のタイミングは、この「Canon EXPO2023」に合わせたものという。
また「このクラスの機械なので、早めのタイミングでお披露目をして、2024年から本格的に販売していくという」と担当者。
5000万円クラスの機器なら、検討からサンプルなどのテストプリント、比較などを含めて、納入まで1年ほどというのが一般的なので、EXPOと合わせるというのは良いタイミングでの発表となった。

「Canon EXPO2023」では、同社のカメラや家庭用製品はもちろん、医療や半導体向け機器、カーディーラー向けのシステムなども展示されており、1社の内覧会ということを忘れてしまうような多彩な展示がなされていた。
その中で、商業印刷(プロダクションプリンティング)事業も、比較的入口に近い大きな展示スペースを使って、製品のデモンストレーションを行なっていた。
来場者も印刷分野の展示・デモンストレーションに足を止める人が多く、中には熱心に係員に説明を求める人もいた。

商業印刷ではデジタルの普及が始まっているが、それでもまだアナログ印刷機が優勢だ。
ラベル印刷も普及率が低く、ともに伸びしろが大きいというのがキヤノンが見ているデジタル印刷への展望と感じる。

このEXPOでの反響も上々で、多くの人がデモンストレーションを見た。
サンプルなどの配布は行っていなかったが、今春にはキヤノン・下丸子本社内にある「カスタマーエクスペリエンスセンター東京(CEC TOKYO)」でデモやサンプルを見ることが可能になるだろう。
また、5月末からドイツ・デュッセルドルフで行われる「drupa2024」でもお披露目される。

同社も含め、今年は「drupa」に向けて、多くのメーカーがデジタル印刷機を発表しており「プリンティングの領域で、アナログからデジタルへ」という動きは加速しそうだ。

 

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