【2024年10月18日】9月、PODiの新理事に兵藤伊織氏が就任した。
PODiは、米国発祥でグローバル展開を行う非営利団体。デジタルプリントに関する情報発信やセミナー、視察ツアーなどを行っている。
兵藤氏は、これまで大手企業でデジタル印刷やプリプレスのデジタル化プロジェクトにかかわっており、今年9月「パラシュート株式会社」を設立し独立。デジタル印刷化の支援やフォトグラファー支援、製品のプロモーション支援などのサービスを展開している。
今回は兵藤氏にPODiや自社のこと、デジタル印刷の今後について話を聞いた。
――兵藤さんご自身のことをお教えください
実家は父が警官で、兄は自衛官という公務員一家で自分も自衛官の道を選びました。パラシュートという社名は、私自身が千葉県にあるパラシュート部隊出身のためそこからきております。
しかし、人と関わるのが好きなためこの仕事は違うのかなとの思いもあり2年で除隊。その後、縁があって2004年に東芝ビジネスアンドライフサービスの資料情報事業部に就職しました。
最初はコピー業務につき、電力会社の図面を複製する仕事をしていました。これが紙媒体との最初の出会いということになります。その頃はまだ「これ一本で飯を食う」というような思いはなく、逆につまらないので辞めようと思っておりました。
――その時はまだ会社の業務という感じだったのですね。その後ライフワークに変わっていった?
はい。このあと、この紙によるコピーがデジタルデータ入稿になり、データ化してほしいという仕事が増えてきたので、データ関係について学ばなくてはいけないな。という気持ちで調べたらDTPというワードが見つかり、すぐに専門学校に入学してDTPエキスパートを取得しました。その頃から徐々に印刷にはまっていった感じですね。またデジタルデータになったことでスクリプトを使った自動化を構築・提案して、現場の工数、人件費削減に貢献できました。そこでデジタル印刷と自動化が利益に結びつくと感じ、それが評価されたことがデジタル印刷にハマっていった経緯です。
2014年10月に栃木県にある東芝メディカルシステムを担当することになりました。同社は日本最大手医療機器の会社で、その時はまだ医療機器に同梱するマニュアルはモノクロでしたので、視認性とユーザビリティ向上を目的とし、ゼロックスのデジタル印刷機「iGen4」を軸にカラー化を行いました、しかもモノクロと同じ販売価格にしたことで非常に好評でした。
――その後の所属はキヤノンのグループ会社でしたね
東芝メディカルシステムズが、キヤノンに買収されキヤノンメディカルシステムズとなりました。
そこでデジタル印刷ワークフローの入れ替えが始まり、転籍させて頂くことになりました。
2019年にはOce「インクジェット輪転機CS6700」にホリゾン「Smart Binding System」を接続した、日本で初の自動化したマニュアル印刷工場を作りました。コンセプトは印刷を知らないメンバーでもマニュアル生産ができる印刷工場です。
――プロモーションマーケティングも学ばれたと聞きました
その後2021年にプロモーションマーケティングの部署に異動させて頂きました。業界の先輩達からは常に「製造だけでなくマーケティングを学んだほうがいい」と言われていたことがきっかけです。
異動早々にプロモーション用のカタログ在庫をキヤノンのデジタル印刷で減らすプロジェクトの話を頂きました。それまでは大量にオフセットで印刷して古くなったカタログは廃棄されるということが繰り返されてきました。このプロジェクトでは、廃棄コストを削減し、環境負荷も軽減されるなど、多くの良い影響が判明しました。上場企業としてはCSRの活動報告に入れられるなど、デジタル印刷が環境面でも非常に役に立つことが証明できました。
前職時代からデジタル印刷の活用促進などを訴求する講演活動も行っていた
――最初のころと今のデジタル印刷はどう変わったと感じますか?
最初はデジタル印刷という手法を選んでいたのが、近年は顧客の課題解決で選ばれるようになってきたと感じます。
先ほどの話でも分かるように「在庫を減らしたい」「環境負荷を抑えたい」「CSRに載せたい」「機会損失を減らしたい」という要望をかなえられるのです。
私はマーケティングを学んだことで「お客様の最大の課題を知る」ということが非常に重要と感じるようになりました。
――印刷会社もマーケティングが必要と最近は言われています
そうですね。印刷会社の顧客もマーケティングベースとした提案を必要としています、実際そのような営業のほうが顧客の反応が良いのは、私自身、日々営業をしていて感じており、印刷会社も「なぜ印刷物が必要なのか?」ということを考慮し、常に提案のアップデートをしていくことが必要だと思います。
また「印刷の価値(紙媒体の価値)」を印刷会社が伝えきれてないのでは?とも感じております。
――印刷の価値というのは?
紙媒体が物として必ず残ることです。例えばチラシやパンフレット、カレンダーでもそうですが、置いてあれば繰り返し見ることができ、目に入りますよね。その度にその会社や製品、情報を思い出してくれます。
逆にQRコードだけ渡されて「あとで見てください」というのは、ほとんど見てくれませんし頭の中に残りにくいですね。WEBサイトもいつ消えるかわからないですし。
――そういった価値を印刷会社は理解していない?
完全に二極化していると感じています。
私自身、経営者の先輩方と海外に同行させて頂く機会が多いのですが、新たな価値を作るべく印刷技術やサービスを見ている方は「印刷会社」に対する考えを大きく変えてきています。特に私と同じ年代はそういった方々が圧倒的に多い。「これからの印刷会社はこのような価値をユーザーに届けるべき」というマインドをしっかり持っており、海外に行っては新しいサービスを見つけ、日本できちんと実行をされています。
インクジェットの専門家である大野彰得氏と兵藤氏
――やはり海外に行くのは重要ですか?
はい。海外に行って自分の目で見ている方々は行動力が違います。WEB媒体で知る情報も良いですが、やはり現地での空気感や熱量はWEB媒体では知ることができないですよね。この空気感や熱量が人を動かし、新規事業を作る、価値を作る上で非常に重要だと思っています。製造業である以上、現場がすべてですので、海外の印刷工場視察などはこれからの印刷会社には非常に重要だと感じております。
兵藤氏はdrupaをはじめ海外展示会も多く視察している
――今回、理事になられたPODiについてですが、どこで最初に知り、どのような印象だったのでしょうか
フンケラーイノベーションデイズで、亀井雅彦理事にお目にかかり、少しづつお手伝いをさせて頂きました。そこでデジタル印刷に関わる団体が、私の考えとも非常に近いと感じました。
――実際に理事としてどのような活動をされるのでしょう
理事という形で参加しておりますが、私自身現場歴が長いので、現場目線でさまざまな情報を伝え、課題解決内容を伝えていく形をまずは考えております。
印刷会社の事業を大きく変えたいと思っており、デジタル化や自動化を進める中で、システム導入やワークフローの的確な仕事をメーカー色の無い中立な立場で支援できると考えています。
また、海外に行くことを進めたいのでグローバルにツアーなども企画し、海外とのつなぎ役になりたいとも思っています。先程お伝えした海外の印刷工場見学も企画をしていきます。
リアルイベントもメーカーにできないようなフラットな形で提供していきたいですね。
――兵藤さんが9月に設立した会社「パラシュート」ではどのような仕事をされますか
デジタル印刷の現場運用支援から始まり、所有しているデジタル印刷機に合わせたサービス化など幅広くご支援をしています。またデジタル印刷で作った製品のプロモーションやECサイトの運営支援なども行っております。基本的には現場を軸と考えており、デジタル印刷の現場に入り、自動化やDX化などを構築、営業担当と会話しつつ営業同行をさせて頂き、最終的にはサービス化を企画立案、依頼者様の一員となってデジタル印刷を盛り上げております。よくある「コンサル的な資料を作って終わり」という形ではありません。
印刷業界には「デジタル印刷機を導入したけれど使いこなせない」「仕事がない」「もっと利益を出したい」と言ったお話もあるので、ありがたいことに日々忙しく活動をさせていただいております。
――最後に今の日本の印刷やそのデジタル化についてはどうお考えでしょう?
私の周りにいる人でいうと、ほぼ海外の最先端にいる印刷会社と変わりないか、それより日本が上と感じています。日本が特に遅れているとは感じておりません。
先程の二極化の話にも繋がりますが、経営者がリスクをとれるかどうか「とにかくやってみてダメなら撤退する」という会社は最先端にいる感じです。逆に「儲かるなら投資するけど、儲からなそうならやらない」という会社はだいたい厳しい状況にいるようなイメージですね。このあたりもPODiや当社で解決ができるお手伝いをさせて頂ければ幸いです。
パラシュート
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