【2024年5月1日】今年2月、電通の「2023年日本の広告費」が発表された。
これによると、2023年の総広告費は、通年で7兆3,167億円(前年比103.0%)となり、1947年の推定開始以降、前年に続き過去最高を更新した。
「2023年日本の広告費」は2年連続で過去最高を更新した
サイン&ディスプレイに関わる屋外広告や大型ディスプレイ広告などのOOHが含まれる「プロモーションメディア」は、1兆6,676億円(前年比103.4%)と増加したが、コロナ前の水準には戻っておらず、リーマンショック前の2007年の市場規模から比べると3分の2以下に落ち込んでいる。
筆者は、この「日本の広告費」について、広告市場だけでなく、日本の経済やプリンティング業界とも深くかかわっていることから、注目しており、算出方法やその見方について、以前から聞きたいことが多くあった。
電通メディアイノベーションラボ研究主幹の北原利行氏
今回は、この調査の責任者で、電通メディアイノベーションラボ研究主幹の北原利行氏に話を聞いた。
――毎回思うのですが「日本の広告費」は、どのような形で調査されているのでしょう。いつから調査を開始しているんでしょう?
基本的には通年でやっています。それぞれの分野に媒体担当者がいて、業界動向や経済産業省の統計などをヒアリングをしているんです。
実際の推定作業に入るのは前年の秋、今回であれば9月ぐらいからです。
――方法は?
一般的な質問はアンケートです。その年に関してまとめた質問を、12月ぐらいに発送して調査への協力をお願いします。集計作業には、だいたい1月ぐらいから入ります。
さらにこの数字をもとにして、いわゆる業界団体にヒアリングをかけて、間違いのない数字であるかを最終的に固めていくという感じになります。
――固めていく作業というのがあるのですね
テレビなどは「民放連」がまとめた数字がありますので、ほぼぶれはないのですし、各分野の回答者からは正確な回答をいただいているとは思うのですが、たまに書き間違いも含めて「これは本当なの?」という数字も出てきます。それを再度質問し、担当者の肌感も加えて「おかしいな」という部分を修正していきます。
いわゆる「ファクトチェック」が、最終的に一番大変な作業になります。
――これを何名くらいでされているんですか?
事務局は数人で、これに各媒体にそれぞれ担当者をお願いしていて、全体で50名弱になります。
各媒体の担当者は専任というわけではなく、兼業でそれぞれの分野のエキスパートが協力するという形です。
――読者にかかわりが深い屋外広告などを含む「プロモーションメディア」ですが、2023年は1兆6,676億円と増加しましたが、最も多かった2007年(2兆7886億円)に比べれば3分の2以下に減ってしまいました。この要因は?また回復の見込みはあるのでしょうか
やっぱり1番大きい理由は、紙系のメディアが減ってるってことなんですよね。
特に「フリーペーパー」とか、昔はすごく勢いがあった時代もありました。これらはネットに移行し、かなり少なくなっています。
あとは、折込も新聞の部数が減る中で少なくなっていきました。折込は2007年当時の方がまだまだ大きかった。
こういった紙系のメディアが、プロモーションメディアの中で落ちてることから、いくら他の分野が増えても全体では減ってしまっています。
「プロモーションメディア広告費」は緩やかに回復したが、全体の割合では漸減を続けている
――「屋外広告」に関してはどうでしょう。3,806億円から2740億円に減っています
屋外は東日本大震災や昨今のコロナ禍など、不利な要因が重なりましたね。
減ったことは確かなんですけれども、でもどちらかというと緩やかに戻っていくイメージで、人が動き出せば広告も出てきます。
一方で、ポスターやPOPなど、これまでプリントメディアを活用していた部分は数値が落ちています。
――それはなぜでしょうか
プリントされていたものから、デジタルサイネージなどの動画媒体に置き換えられていることが大きいです。動画が増えたのは、一つはスマートフォンに対抗するために動きのあるものを欲しがる傾向。もう一つ、今は人手不足もあり、サイネージの方が貼り換えなしで済むというメリットもあります。
屋外広告の中の分野ということで言えば、やはりデジタルサイネージや動画広告などは増えていくと思います。
――これは私の肌感なのですが、それにしてはデジタルサイネージで、リアルタイムに視聴者を特定して流すリコメンド広告などは、思ったより増えていない印象です。インターネット広告のようにもっとあってもいいのではないかと思うのですが…
あることはありますが、少ないのは、それを行った場合の初期費用や制作費に対し、リターンを計算できないからではないかと思っています。
インターネットの場合は、クリックから購入までをすべて計測し、どのような効果があったのかを検証できるのです。それができないことが、屋外のリコメンド広告が増えない要因であると思います。
それも制作費は普通のデジタルサイネージよりは高くなるわけですし、効果検証できないものに高い広告費を支払うというのは、今のクライアントの要望には合いにくいのではないでしょうか。
――海外でもあまり聞きませんよね
欧州は景観条例の規制が厳しいので、日本よりもデジタルサイネージを設置できる場所は限られている影響があると思います。一方でニューヨークなどはデジタルサイネージだらけ、野球のスタジアムなんかもディスプレイだらけになっています。
サイネージだらけのニューヨークタイムズスクエア前。渋谷のスクランブル交差点も同様だ
――なるほど。そこに来る人がどんな人か分類しやすい場面では使われそうですね。ところで、これも私からの大きな疑問なのですが、屋外広告のプリント費や商業印刷の印刷費などが「広告費」に含まれていないのはなぜでしょうか?
屋外広告のポスターボード、商業印刷の例えばポスターとかカタログとかチラシなどは、媒体費の中に印刷費やプリント費が入っているので、これを入れるとダブルカウントになるんです。このために、その数字は排除してるっていうのが事実です。
一方で、商業印刷が含まれるDMに関しては、日本郵政の何通出されたかという広告郵便などを集計していました。しかし、業界団体の日本DM協会から「DMの数は減っているけれども、中身はカロリーアップして制作費は上がっているから、実態の数字に合わないよ」と言われたので、制作費がどのぐらいか調べ始めています。ただ、これも業界の大手の方々にヒアリングしながら推定してる数字なので、参考値としているだけで広告費に入れていません。
――さて、少しプロモーションメディアから離れて全体を見てみたいのですが、日本の広告費が史上最高を更新しましたが、市場の変化はありますか?
ECプラットフォームなど集計対象が変わってきています。またマス媒体は減っていますが、これは先ほど屋外の部分でも言ったようにデータ計測がインターネットに比べて十分にできないからと考えています。
購買がネットで決定されていることが多いので、ネットのデータをと組み合わせて数値を出すことはできるのですが、こういった組み合わせを駆使していく手法は、もう「広告」というよりも「販促」に近いものになっていると感じます。
市場をけん引する「インターネット広告」も運用型広告が出てから、もうどんどん販促の分野にシフトしていると感じます。
「マス四媒体」もその影響力が徐々に下がっている
――ちょっと意地悪な質問をしますが、新聞や雑誌など印刷に関する広告は減り続けています。もはや「マス四媒体」という表現は厳しいのでは?
おっしゃるように、マスというイメージは、昔とはもう違ってることは確かだと思うんです。けれども、まだまだテレビの視聴者はたくさんいるわけですし、新聞も減ったといえば3000万ぐらいの部数があるので、そういう面で言うと「マス」という表現は当てはまると思います。
もう一つ言えば、インターネットって、やっぱりマスになり得ないんです。皆さん同じスマホで、同じサイトを見たり、アプリ使ったりしても、全然違う広告が出きますよね。そうすると、やっぱりマスではないので、その区分けとして「マス四媒体」という言葉は生きているのではないでしょうか。
――今後、増えていく期待できる広告はあるでしょうか
日本はX(旧ツイッター)やインスタグラムなどのSNSでシェアされるのを喜ぶ傾向があるので、インフルエンサーの存在が大きくなりそうです。彼らはもはや広告媒体ですし、存在感が増しております。
――最後に、私は印刷の業界や屋外広告で特にプリントメディアの取材が長かったので味方して言うのですが(笑)、「紙の媒体は人の心を動かしやすいメディアである」と思うのです。この部分に「プロモーションメディア」「プリンティングメディア」の期待はあると思っているのですが、いかがでしょうか
おっしゃる通りですね。
人の心を動かすという意味で言うと、やっぱり印刷の強みはあります。
例えば新聞広告の全30段のインパクトにはどう頑張ったって、スマホの数インチの画面は敵わない。新聞に漫画「鬼滅の刃」の広告が載った時は、SNSで拡散され、大きな話題になったと言われています。
屋外でもやっぱり巨大なビジュアルを見れば「すごいな」「大きいな」という強いインパクトが残るはずで、これもバズりやすい。紙はエモーショナルな部分に訴えかける効果が高い。DMも見た目や手触り、仕掛けでどのように開封してもらえるかにかかっているでしょう。
今後は紙のメディアを「どういう風に使っていくか」というアイデアが試されていると思います。
――ありがとうございました。来年の「日本の広告費」も楽しみにしております
はい。ありがとうございました。頑張ります!
2023年 日本の広告費
https://www.dentsu.co.jp/news/item-cms/2024002-0227.pdf
電通メディアイノベーションラボ 研究主幹 北原利行による「2023年 日本の広告費」の「ウェブ電通報」解説記事
https://dentsu-ho.com/articles/8831
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