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【この人に聞きたい!】洗剤もオリジナルに!「Myアタックボトル」を制作 花王 作成部門 クリエーティブプロデュース部 蓮見裕威プロデューサー

【2019年12月28日】花王は2017年、「アタックNeo」をカスタマイズした「Myアタックボトル」を制作し、これを花王が協賛する「全日本少年サッカー大会」で参加全選手に贈呈した。各チームユニフォームを模したデザインに、各選手の背番号、下の名前がデジタルプリントされたそのボトルは、子供たちを喜ばせ、選手の家族からも好評を得た。
また、その後も自社開発のインクを使用したパッケージカスタマイズも行うなど、この分野での取り組みが目を引く。

花王と言えば国内最大手のハウスホールドのブランドオーナー。大量品が多い同社がなぜデジタルプリントを活用したのか、同社作成部門 クリエーティブプロデュース部 プロモーションプロデュースグループの蓮見裕威プロデューサーに聞いた。

 

花王の作成部門とは?

――所属の部署の説明からお願いします
作成部門はインハウスのクリエーター集団で、部署内にはパッケージ作成部、広告作成部、コーポレート作成部、そして私が所属するクリエーティブプロデュース部という4つの部署があります。
私は元デザイナーで、かつては広告作成部に所属し、Web・SP・グラフィックと、横断的にデザイン制作・ディレクションをしてきました。約3年前、今の部署に異動してからは、ルーティーンワークをすべて免除してもらい、日々、花王のブランドに資する新たな企画を事業部に提案し、実行に移しています。

――今回の企画もその中から生まれたものですね?
そうですね。
2017年春、当部署の社員が社外セミナーでHP社さんのデジタル印刷機「Indigo」の存在を知りました。興味深かったため、HP社の営業担当者さんにお越しいただき、お話を聞き「デジタル印刷は使えるな」という印象を持ち、次の日にはもう「Myアタックボトル」のアイデアが浮かび、2週間後には事業部に企画提案していたという感じです。

――ずいぶん早い展開です
後々気づいたのですが、最近流行りの「OODA(Observe-Orient-Decide-Act)」メソッドを自ずと実行していました。

当時、私の息子が少年サッカークラブに通っていて、小学生は土のグラウンドでの練習・試合が多く、泥まみれになったユニフォームの汚れを落とすのが大変でしたので、「アタック」ブランドで何か少年サッカーと絡めた企画ができないか前々から考えていました。そんな折でしたので、すぐにアイデアが浮かびました。

私も息子もそうでしたが、少年サッカーチームに所属している家族は、チームのユニフォーム、背番号への愛着心が強いものです。その要素をデザインしたカスタイズボトルならば、毎日楽しくお洗たくしてもらえると同時に、アタックブランドに「愛着」を持ち、生涯使い続けてもらえる。

その思いから、第一弾として、2017年12月25日、鹿児島で行われた「全日本少年サッカー大会」の開会式で、各選手の背番号・下の名前を入った、各チームのユニフォームを模したカスタマイズボトルを、出場48チーム、約1,000人の全選手一人ひとりに贈呈しました。

――実際の効果はいかがでしたか
非常に喜んでもらえました。
時間が許す限り、一人ひとりに「おめでとう」の一言とともに手渡しし、選手の笑顔を間近に見ることができました。
また、会場に大会ロゴとアタックロゴが入った格子柄のバナースタンドを用意し、その前でボトルを手に記念撮影もしてもらいましたが、これも好評でした。

結果、ボトルの写真をSNSにUPして、拡散してもらうことにも成功しました。その中には優勝盾とともに部屋に飾ってくれている写真もあり、アタックブランドに、生涯、愛着を持ち続けてもらえるという確信が生まれました。

ブランド資産となる「生涯顧客創出」という目的の第一歩を達成したと感じています。

――その後の展開は
2018年には、当社が開発した水性インク「LUNAJET(ルナジェット)」を用いた「SDGs(Sustainable Development Goals)」視点の企画をいくつか実施しました。
というのも、「LUNAJET」はVOCレス、溶剤レス、異臭レスを兼ね備えたインクで、人と地球環境にとても優しく、そのイメージ醸成を図りたかったからです。


従来インクとLUNAJETの違い(花王プレスリリースより)

2月には、メリーズ協賛の「新米ママの育児講座」で、育児と仕事に忙しい新米ママ・パパに、赤ちゃんをお風呂に入れるたび、笑顔になってもらうべく、会場で赤ちゃんの写真を撮り、ラベル印刷し、「メリーズ ベビー全身泡ウォッシュ」とともに10名に贈呈しました。

そのときに使ったプリンタはマスターマインド社のA4プリンタで、小型のものです。「LUNAJET」インクは、小型プリンタでもフィルムに直接印刷できます。ラミネートすれば、水や溶剤に触れやすい商品ラベルに印刷できるメリットがあり、会場で印刷して渡すことができる点からもイベントでの活用にも適しています。

5月の「エシカルフェスタ」では、オールプラスチック傘を販売しているサエラ社とコラボし、子供たちが自分たちで傘を組み立てる「そら傘ワークショップ」に、傘へ自由に貼ることができるオリジナルデザインのフィルムシールを提供しました。

ビニール傘は、年間約5,000万本近く廃棄され、分別廃棄が難しくリサイクルされず、安価で作るためにフィルターなしで有毒物質を川に流していて、発展途上国で河川汚染を引き起こしています。子供たちが、自分でデザインした傘に愛着を持つことで、ビニール傘をすぐ捨てず長く使い続ける「Mottainai」精神を育むことを意図して企画しました。

9月の花王協賛の「ツール・ド・東北」では、イベント参加者に、来年も忘れず、被災地を思い出してまた来てもらうべく、イベント会場に応援メッセージカードとフォトブースを設け、その場で撮影・シール制作・貼付し、計100名に贈呈しました。

――今年に入って、記念品としての贈呈からさらに商品を販売するというところまで行きましたね
これは、「花王」がMyデザインを作ってお渡しするのではなく、「お客様」自らが商品を購入してMyデザインを作成していただく-「UGC」(User Generated Contents)-を狙ったもので、当初からの目標でもありました。

当初、サッポロ社の「フォトビー」のように、自社ECで販売したいと考えていましたが、「アタックは、あまりにマスの商品なので、流通との兼ね合いもあり、自社ECでの販売は避けたい」という事業部の意向があり、専業ECで販売することになりました。

ただ、流通さんの持つ購入者情報とどう連携するか、そのスキームには頭を痛めました。購入者情報は、花王が入手することができない。たとえ入手できたとしても、システム連携には莫大な費用がかかります。そこで、購入いただいた商品の箱にID付きのQRコードを印刷したチラシを同梱。お客様が花王のキャンペーンサイトにアクセスいただき、デザイン作成後、シールだけを花王から後送するという苦肉の策を捻り出しました。

シールの仕様は、お客様に貼っていただくものなので、貼りやすい工夫をしました。

提案からは1年半、10を超える他部門との合意形成を経て、ネット通販の「LOHACO(ロハコ)」で、2019年2月1日から3月25日までの期間限定で、花王としては初のカスタマイズ販売を実施することに至りました。対象商品は、衣料用洗剤の「アタック Neo」でははく、同年4月に新発売された、部分汚れ用洗たく石けんの「アタック プロEX石けん」でテスト展開することになりました。

――実際のデザイン作成から購買する手順などは、どのようなものだったのでしょうか
ダウンロードするアプリケーションではなく、ブラウザ上でデザイン作成できるものにしました。お客様が、子供が好きそうな100種類の背景デザインから一つ選び、子供の名前やメッセージを入れればオリジナルデザインが完成する、シンプルなWebアプリケーションを用意しました。

ターゲットは未就学児から小学校低学年のお子さんを持つ母親で、子供が自らお手伝いをすることで 「自分で考える力」を身につけ、ほめられるなどの「親子のコミュニケーション」を通じて、「自己肯定感」を育んでいってほしいという思いで企画しました。
また、卒園・卒団時の記念品としてのまとめ買いも鑑み、販売を2月~3月に設定しました。


用意したシールデザインの一部

――成果はあったと考えますか
はい。
商品の売り上げは、LOHACO内での新発売時の売り上げを超えました。
また、アンケートを実施したところ、「お手伝いの意欲が上がる!」「洗濯が楽しくなる!」、「デザインがよい!」「卒団に!」、「プレゼントに!」といった声が多く寄せられました。
その一部をご紹介します。

自分の石けんだから自分で洗う!と言っているので今回もうしこんでよかったな。と思いました。(40代男性、6歳男の子)

洗面所でもだしっぱなしにしてもいいなーと思えるデザインでとてもいいです!(30代女性、本人用・3歳女の子用)

卒団のプレゼントにとてもいいものをみつけました!ありがとうございます! (40代女性、その他 ギフト用)

――今後の展望などは
もちろんオリジナルのラベル、パッケージは今後も継続していきたいと考えています。

ただ、商品プラスアルファという意味で、もっとSNS上で拡散していただけるよう、企画をさらに尖らせないといけません。もはや、これまでのように商品の売り上げや利益がKPIではなく、話題性や拡散力こそがKPIになってきています。アプリケーション制作には多大な費用が発生するので、「SNS拡散+カスタマイズ販売」の両輪で進めていくことが鍵となってきます。

ブランドとお客様との「絆づくり」。そのためにはどのようなラベルデザイン、そしてスキームが適しているのか。日々、手探り状態ではありますが、年末にまた新たな企画を実施する予定ですので、ご期待ください。

【取材日2019年5月31日】

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