【2024年6月13日】「drupa2024」を振り返る<前編>に続き、6月7日まで、ドイツのメッセ・デュッセルドルフで開催された「drupa」について概観を述べていく。
【コラム】「drupa2024」を振り返る<前編> 来場者数は驚きの数字に! テーマは「〇〇〇〇drupa」⁉
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今回もdrupaの開幕前にある程度、展示会の持つ「テーマ」について予測を立ててから現地に行った。
出てくるだろうと思ったのは「自動化」で、これがメインのテーマになるのではないかとも思っていた。
実際にロボットアームなどを使って、展示するところも多かったが、これは2016年にも見られた光景だ。当たり前のように、こういった展示が各ブースにあるのだが、本気度という点で疑問符がつき、新規性があるものも少なかったように思う。
そうそう!一つだけ新規性というか「なんじゃいこりゃ!」と思ったのはHeidelbergのオフセット印刷機に、自動で版を取り付けるマシン。物干しの洗濯物というか大型帆船の帆のように版をぶら下げて、それぞれの版胴に差し込むというものなのだが、このデモには多くの人が集まり「ワーオ!」「アメイジング!」なんて声が飛んでいた。アナログの自動化の特異点みたいな展示だが、印刷会社の人はオフ機が好きだし、欧米の人はこういう不思議で派手な実演が大好きだ。実際、これがものすごく役に立つのかをオフセットの専門家に聞いてみたいのだが…(どなたかご教授ください)。
その自動化だが、コロナ禍でさらに現場仕事を嫌がる若者が増え、人手不足が慢性化しているのだが、そこに対する答えのようなものを出してくる企業は、残念ながら見受けられなかった(こちらも見逃していたら教えてください)。
「デジタル印刷への移行が一番の省力化で、無人化への第一歩」という意見は、以前からそこかしこで聞かれたが、デジタル印刷機を展示することがその答えということなのだろうか。
これは記者自身も答えが出ていないテーマでもある。
もう一つ注目していたのは「紙以外へのプリント」。
前から言っているが、「情報」を迅速に届ける媒体は、紙からデジタル媒体に移り変わった。
「ドジャースの大谷翔平選手〇号ホームラン」というニュースは、スマホに数分後には流れてくるし、大きな地震があれば瞬時に緊急地震速報が入る。これらを次の日に新聞で知る人は少ないだろう。昨日の新聞を読みたがる人は、昔からあまりいなかったが、今の新聞は昨日や一昨日のニュースがたくさん載っていて古新聞化しているのだ。
新聞が衰退すれば当然チラシも減る。特にコロナ禍でスーパーをはじめとした小売店がチラシをやめて、デジタルチラシやアプリ、SNS、LINEなどIT系を中心とした他の方法に移行。これで事足りることが分かってきたからさらに厳しい。
カタログやパンフレットはどうかというと、通販が増える中で店舗の価値が減衰し、これも非常に厳しい。高級車販売のディーラーでも立派なカタログの配布をやめ、QRコードをスマホに読ませて「デジタルカタログで見てください」という動きが加速しているという。
いずれも電通の「日本の広告費」を見れば明らかだし、このサイトの読者くらいになれば「言わなくても分かっているよ」という賢明な方も多いと思う。
テーマも、そういった印刷事情の中で残りそうなものを考えることになる。
まずはパッケージやラベル。商品を包み、輸送に耐えるようにし、さらには消費者に商品を訴求する包装は、新興国の小売・流通分野の発展とともにマーケットが拡大している。
包装関連の展示は以前から多かったが、今回もラベルや軟包装をデジタル印刷機に置き換えるという提案を各社がしていた。しかし、速度やランニングコストなどの問題から「少量、多品種、短納期なら」という条件付きのシステムが目立った。
このほか、デジタル印刷機が活用される包装は、推し活に代表される「ファン向けパッケージ」などがある。それこそ「少量、多品種、短納期」なものだからだ。これらの印刷物には、コレクション的な付加価値が付くのだが、これをさらに進めて利益を出しているのが、いわゆる「紙以外へのプリント」だ。
この「紙以外へのプリント」で代表的なものが、アクリルキーホルダーやアクリルスタンドなどの「ファングッズ」。これらへのプリントは卓上フラットベッドUVプリンタで行われるが、従来の大手メーカーをはじめ中国メーカーも多数出品していた。
一部のメーカーでは、卓上のフラットベッドプリンタではなく、もう少し大型のフラットベッドプリンタを、この「グッズプリント」で活用できるという話をしていた。大量の注文を短期間で出力するには、今まで多くのプリンタを並べ台数を増やして対応する会社がほとんどだったが、これを大判でやってしまおうという提案だ。
実際にどちらが取り回しがいいかというと、プリント物が載った治具などを並べるのに大型のマシンだと時間がかかる。このため、これまでは「卓上✕台数」が選択されてきた。しかし、これも解決法がある。ロボットで並べてしまえば、一発で正確に位置合わせでき、時間がかからないのだ。大型のプリンタを入れるならセットでロボットアームも入れるべきだろう。
さて、記者が最も期待していたのが「DTP(Direct to Film)」。
これはTシャツなどに使われるプリント方式。昇華転写プリントと異なり、転写紙を切り抜く必要がなく、工数が大幅に削減できることから、世界中でヒットしている。これがもっと数多く展示されていると予想していたのだが、確認できた限りだが、10社に満たない出展にとどまった…。
この点で「drupa」は、やはり紙の印刷がメインなのだと痛感した。
プリンティングのトレンドは「紙以外」、いわゆる「特殊印刷」と言われ、今までは印刷の中でも傍流であった分野に傾いている。しかしながら、「drupa」はこの辺りを取り込めていない。これが、来場者を3割も減らし、出展者も200社減らした原因の一つではないだろうか?
意見交換した他の来場者も「FESPA」や「PrintingUnited」の方が「紙以外」を取り込んでいると話す。またテキスタイル系のデジタルプリントならば「ITMAを視察に行けばよい」という意見もあった。
ちなみに「PrintingUnited」は確認できなかったが、「FESPA」「ITMA」は、いずれも来場者数を伸ばしている。
やはり今回は「China drupa」だったという印象。次回は2028年だが、それまでに中国でも多くの大規模な印刷系展示会が開催されることを考えると「そちらを見に行けばOK」というトレンドが促進されることも予想できる。
そして来場者と出展者を大幅に減らした「Lost drupa」でもあった。
現状で持ちこたえて踏ん張るには、やはり「紙以外」のプリンティングを、もう少し意識的に取り込んでいった方が良いのではないかと思う。
先ほど例に挙げた「PrintingUnited」は、もともとは「サイン(看板)」と「ディスプレイ」の展示会であったのだが、グッズプリントの出展者を増やし、さらにTシャツなどのテキスタイル部門を取り込み、一部の商業印刷系サプライヤーにまで声をかけている。
さまざまな分野の出展があることで、来場者も多彩になり、情報が混ざり合うことで活性化している好例で、出展者からも来場者からも評判が良い。
世界一の印刷資機材展である「drupa」の方向性が問われた2024年開催。厳しいことを書いたが、すべてエールと思って受け止めていただきたい。
そしてこれが最後の世界一「Last drupa」にならないことを祈る!
追伸:なお、これらのdrupaレポートに他では言えない内容をまじえて「大野インクジェットコンサルティング『drupa2024報告会』」で、記者が講演いたします。
他の講演者がさらに素晴らしいのでぜひご参加ください。
【コラム】「drupa2024」を振り返る<前編> 来場者数は驚きの数字に! テーマは「〇〇〇〇drupa」⁉
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