【2024年2月28日】電通の「2023年 日本の広告費」が発表された。
これによると、2023年の総広告費は、通年で7兆3,167億円(前年比103.0%)となり、1947年の推定開始以降、前年に続き過去最高を更新した。
上半期(1-6月期)は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の5類感染症移行に伴うリアルイベントの開催数増加や国内外の観光・旅行の活性化などにより回復がみられた。
一方で、下半期(7-12月期)は、夏から秋にかけての猛暑や中東問題などの影響を受けたものの、社会・経済活動の活発化に伴い「交通・レジャー」「外食・各種サービス」「飲料・嗜好品」を中心に広告需要が高まった。
進展する社会のデジタル化を背景に増加傾向が続くインターネット広告費や人流の活発化に伴って増加した「イベント・展示・映像ほか」などのプロモーションメディア広告費が、広告市場全体の成長に寄与したという。
市場をけん引しているインターネット広告費は、3兆3,330億円(前年比107.8%)と過去最高を更新し、前年より2,418億円増加した。コネクテッドTVの利用拡大に伴う動画広告需要の高まりや、デジタルプロモーション市場の拡大などが成長に寄与した。
プロモーションメディア広告費では、「イベント・展示・映像ほか」が、3,845億円(前年比128.7%)と大きく増加した。
プリンティングやプロモーションにかかわりの深い「プロモーションメディア広告費」から見ていく。
プロモーションメディア広告費は、全体で1兆6,676億円(前年比103.4%)と増加した。
新型コロナの5類感染症移行に伴う各種イベントの再開や大規模化に加え、複合型商業施設やテーマパークなどにおける催事企画の増加により「イベント・展示・映像ほか」が大きく増加した。また、大型でインパクトのある企画が増加した「交通広告」や「屋外広告」も、プロモーションメディア全体の成長に寄与したという。
一方で、長期的な推移をみると新型コロナウイルス感染拡大前の市場規模には戻っておらず、リーマンショック前の2007年(2兆7886億円)の市場規模から比べると3分の2以下に落ち込んでいる。
細かな内訳は次の通り。
屋外広告
屋外広告は2,865億円(前年比101.5%)と微増だった。
理由は、都市部を中心に出稿量が堅調。ラグジュアリーブランド、エンターテインメントなどの業種に加え、飲料、アパレルなどさまざまな業種で広告需要が回復した。特に、テレビ・デジタルで到達しにくい若年層向け商材での活用を中心に広告需要が高まったとしている。
長期看板や短期看板や短期ネットワーク看板は、繁華街で目立つ大型OOH媒体への需要とともに堅調に推移。屋外ビジョンは、渋谷、新宿、表参道など都心エリアでの需要が大きく伸長した。ネットワーク型のデジタルOOH媒体は、多様な業種で活用が進んでいる。
交通広告
交通広告は1,473億円(前年比108.3%)と大幅に回復した。
鉄道は、大型サイネージや大型ボードなどのジャック系媒体が前年に続き好調を維持し、ネットワーク系媒体にも一定の回復がみられた。駅構内のデジタルサイネージは引き続き需要が高く、各エリアで前年を上回った。
空港は、新型コロナ対策のための入国制限が終了したことにより、国際線の広告需要もデジタルサイネージを中心に高まり、コロナ禍前の水準近くまで回復した。
タクシー広告は、BtoB企業による積極的な出稿は一段落したものの、高級消費財や男性向けトイレタリー商品などでの活用が増え、前年並みの出稿需要を維持した。
折込
折込は2,576億円(前年比97.1%)現象が続いている。
経費高騰による販促予算の抑制や手法の見直し、および紙代の上昇に伴い、出稿量が減少し前年を下回った。
リアル消費への回帰を後押しする媒体として活用され、旅行やレジャー関連などのサービス業で需要が高まった。また、政府による住宅の省エネリフォーム支援制度の開始により、リフォーム関連が増加した。
業種別では、流通・小売における百貨店、ディスカウントストア、ドラッグストアなどが増加。サービス業では、旅行、ホテル・式場が人流の回復により好調であった。前年に続き、買い取り業者も堅調に推移した。一方、通信販売、教育・教養は減少している。
DM(ダイレクト・メール)
DM(ダイレクト・メール)は3,103億円(前年比91.8%)と大幅に減少した。
新型コロナの5類感染症移行に伴う人流回復や対面営業の増加により、これまでDMで代替されていた在宅向けやBtoB営業目的の需要が減少した。また、印刷資材の高騰により、より効果的なDMを求める動きが活発化し、発送数などが絞られたことから、前年に比べて大きく減少した。
通信販売を中心とした流通・小売は、前年に続き堅調に推移。金融・保険は、生活の見通しの不透明さや、新型金融商品などへの期待から増加した。データマーケティングを活用したパーソナライズDMや、デジタル施策と連動したDMが多くみられた。
無宛名便DMは、折込広告の代替としての利用が進んだ。広告主からは単なる配布数量だけでなく、配布されたかどうかの裏付けなど配布品質への要求が高まっている。
フリーペーパー
フリーペーパーも1,353億円(前年比96.3%)と減少が続く。
グルメ・飲食、住宅・不動産、病院・医院、求人情報、金融などの業種が回復したものの、依然として新型コロナや物価高の影響が続き、発行部数や発行頻度が減少した。
地域情報を主体としたフリーペーパーでは、発行地域での新規出店や地域イベント開催などの告知を目的とした広告出稿において回復の傾向がみられた。
POP
POPは1,461億円(前年比96.5%)と減少した。
人流回復に伴い、リアル店舗でのコミュニケ―ション・ニーズが復調。特に顧客体験を重視したエンターテインメント性の高い販売施策が増加した。
一方、デジタルと融合したPOP広告は都市部店舗や旗艦店などでの実証実験としての実施にとどまり、広告費は前年を下回った。
イベント・展示・映像ほか
イベント・展示・映像ほかは、3,845億円(前年比128.7%)と大幅に増加した。
イベント領域は、コロナ禍で開催中止や小規模開催していたイベントの再開、大規模化により、1,704億円(前年比138.2%)と大きく伸長した。特にジャパンモビリティショー2023の開催が寄与した。
展示領域は、複合型商業施設やインバウンド需要の回復に伴い、テーマパークや企業PR施設といったエンターテインメント施設での新装・改装、催事が堅調に推移した。一方、百貨店は市場環境の変化、文化施設は公共投資の抑制などの影響を受け、減少した。
映像関連は、動画共有サービスの普及に伴い配信動画、商品サービス紹介など企業のマーケティングプロモーション活動におけるニーズが高く、制作需要は前年に続き高まった。
シネアド(シネマ・アドバタイジング)は、アニメ映画を中心に話題作も多く、映画業界が注目を集めたことからさまざまな業種で活用が進み、広告需要が高まった。
その他、広告関連市場
「日本の広告費」市場には含まれない印刷関連の広告は次の通り。
商業印刷市場は、1兆7,900億円(前年比100.8%)と増加。
商業印刷市場のうち、ポスター・チラシ・パンフレットの印刷市場は、前年からの縮小傾向は変わらず、1兆600億円(同99.5%)となった。
印刷会社各社は原材料費(用紙・インク・版など)の高騰に対する価格転嫁を実施したが、エネルギー関連コストの高騰に対応できず、減少となった。
ポスティング市場は、1,472億円(前年比106.1%)と大きく増加した。
新型コロナの5類感染症移行に伴う人流回復があったものの、新聞折込の代替へのニーズや全戸配布などの需要が継続し、前年に引き続き増加した。官公庁・自治体関連の配布物や公告などの引き合いも堅調に推移した。主要都市圏を中心に住宅・不動産や食品宅配、グルメ・飲食などが増加した。
DM制作関連市場は、1,115億円(前年比101.1%)と増加。
印刷資材の高騰により、制作関連費が増加した。また、効率的なDM活用のためのデータマーケティングやレスポンス測定のためのツールなど、企画制作費や運用作業費も増加している。
マスコミ四媒体広告費は、2兆3,161億円(前年比96.6%)と減少が続く。
「雑誌広告費」と「ラジオ広告費」は増加したものの、「新聞広告費」が3,512億円(前年比95.0%)、と「テレビメディア広告費」が1兆7,347億円(前年比96.3%)と減少し、マスコミ四媒体全体では前年を下回った。
一方、雑誌広告費は1,163億円(前年比102.0%)と増加。出版社が保有するコンテンツ制作やファンベースを活用した企画、案件が増加しているという。
インターネット広告費は3兆3,330億円(前年比107.8%)と今年も大きく増加している。
進展する社会のデジタル化を背景に、総広告費における「インターネット広告費」は堅調に伸長し、総広告費に占める構成比は45.5%に達した。
内訳をみると、「インターネット広告媒体費」は、2兆6,870億円(前年比108.3%)となり、前年に続きコネクテッドTVの利用拡大などを背景に、「テレビメディア関連動画広告費」が443億円(同126.6%)と増加した。
「物販系ECプラットフォーム広告費※」は、2,101億円(同110.1%)となり、前年に続き、在宅需要の普及などで増加した。「インターネット広告制作費」も、前年に続き、動画広告市場の拡大などにより、4,359億円(同103.7%)と増加した。
2023年 日本の広告費
https://www.dentsu.co.jp/news/item-cms/2024002-0227.pdf
電通メディアイノベーションラボ 研究主幹 北原利行による「2023年 日本の広告費」の「ウェブ電通報」解説記事
https://dentsu-ho.com/articles/8831
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