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【この人に聞きたい!】講談社 販売局デジタル製作部 土井秀倫副 部長① 「デジタル印刷機導入から3年 出版はどう変わるのか?」

【2016年1月6日】講談社では3年前、デジタルインクジェット印刷機「HP T300 Color Inkjet Web Press」と、ミューラー・マルティニの後加工機を導入。文庫や新書を中心に制作を自社内で、少量一貫生産できるようになった。
一般的に書籍の制作は出版社と印刷会社、製本会社が分業で行うもの。これをプリントオンデマンド(POD)化し、一部ではあるが自社に取り込んだ同社は、非常に先駆的で異端だ。その目的や課題は、また将来展望はどうだろう。取り組みの開始から3年、講談社で同事業を担当する販売局デジタル製作部の土井秀倫副部長に聞いた。

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導入から3年、現状は
現在、デジタル印刷システムの稼働率は70%強です。
実は社内需要のみでの稼働率は頭打ちが近づいているというのが現状です。

さらに稼働させる余地はありそうですが、理由は
今のところ、すべての書籍を簡単には、アナログからデジタルへ切り替えることはできません。
その理由はいくつかあります。
まずはデジタル印刷化するには、作家さんの承認がいるということ。
デジタル印刷は少部数で刷れるという特長がありますが、作家さんの立場から言えば、今まで1000部以上で重版していたのに50部になってしまうというのは、抵抗感があるのは当然です。
作家さんがダメなら話はそこで終わってしまいます。

ですから現在、デジタル印刷で制作しているのは
「すでに亡くなっている方の作品」
「海外作品」
「ノンフィクション」
の3つが中心です。

いずれもデジタル印刷化へのハードルが低いのです。
「作者が亡くなっている場合は、本人を説得しなくてよい」
「海外作家はデジタルへの抵抗が少ない」
「ノンフィクションはもともと部数が少なく、デジタル重版でもOKな場合が多い」
といったことが理由となっています。

作家に抵抗感があるのですね
作家さんだけではありません。編集者も作家さんに説明しづらいのだと思います(笑)。
作家さんに抵抗感があるのはわかっていますし、作家さんの人数も多いのです。

さらに、少部数で何度も刷る場合には
「奥付(書籍の巻末に表示する署名や著者、発行日)はどうするのか」
「印税は細かくなりすぎるので、手続きや支払いはどうするのか」
といった事務的な問題もあります。

印刷会社や製本会社との間では課題はありますか
やはり課題はあります。
まず、版のデータですが、印刷会社が権利を持っています。これを出版社に移すにはそれなりの手続きが必要です。装丁も同じで中身の印刷とは別の会社で刷るケースも多く、これもデータはその会社が権利を持っているのです。

そこに発注する編集者も「A先生は、○○印刷」という風に慣例的に決めているケースも多く、これを変えたくないという気持ちもあるのです。
何かミスが起こった時に「デジタルでやったから失敗した」と作家さんから言われるのはやはり怖いという心理もあると思います。

デジタルの良さを伝えていくことが必要ですね。利点をご説明ください
やはり少部数で印刷できることが大きいです。
アナログ印刷では重版が不可能だった作品も、少部数であれば可能になります。
よく、テレビ番組などで歴史上の人物や街などが取り上げられると「その関連本がないか」という問い合わせが書店や出版社に入ることがあります。しかし、希望される本はすでに絶版となっていることも多く、古書でも流通が少なく、高価で一般の方が手にいれられないケースが多々あります。
POD化により、こういった需要、いわゆる「ロングテール」をカバーでき、絶版をほとんどなくすことも可能になります。
読者はこれまで入手不可能だった本を手に入れることが可能となり、出版社は死蔵していた資産を再価値化できるのです。

【この人に聞きたい!】講談社 販売局デジタル製作部 土井秀倫副 部長②につづく

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