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保育園つくった印刷会社って⁉ 丸信 平木洋二社長に聞く 〈シリーズ二刀流①〉

【2023年11月1日】印刷会社は近年、異業種に進出し、新たな柱として、または副業的に他の分野をカバーするケースが増えている。象徴的なのは今年10月、「凸版印刷」が「TOPPAN」と社名変更したこと。TOPPANも大日本印刷も、リリースされるニュースの半分以上が印刷とはかかわりのない内容になっている。
このシリーズでは、そんな印刷業界で二刀流、三刀流を行う企業にスポットを当て、その経緯や現在、今後、そしてその思いなどを紹介していく。

第1回は福岡県久留米市のシール・ラベル印刷業で、包装資材の商社でもある丸信。同社はネットでのシール・ラベル印刷や紙箱作成をはじめ、地元の食材のネット通販、Webコンテンツの制作、食品の衛生検査、そして数年前には保育園まで開設している。
これらの取り組みを進めてきた平木洋二社長に話を聞いた。

 

二刀流は昔から

――貴社はもともとシール・ラベル印刷と包材商社という二刀流です。2つの事業の柱があることは会社にどういう影響を与えますか?
もともと当社は、シイタケ用の木箱製造から始まった会社でした。その箱にラベルが必要になり、ラベル印刷へとつながりました。
現在でも、包装資材が必要な会社は、シール・ラベルが必要です。また、シールやラベルが必要な会社は、包装資材も必要というのは間違いありません。

――非常に近い事業ということですね
間違いなく、親和性がある事業です。
両事業に一長一短があり、それを補う効果があります。
包材は、大量販売が中心で、既製品が多く、他社との競争が激しい。そして直接取引は少なく、間に販社が入ることが多いのです。
一方のラベルは、当社の技術で作ったもので、付加価値があり、下請けになることはありません。一方で1巻1000枚程度と非常に量が少なく、1回ごとに配送をしていると、コストがかかるという側面があります。

――なるほど、それぞれ相反する特徴がありますね
シール・ラベル印刷は、少量・短納期で、お客さんとは直接お話ができます。タッチポイントが多いので、この時に「包材もいかがですか?」ということもできる。そこで包材の納品が増えれば、ラベルを少量で運ぶコストも出ます。
逆に包材から入る場合は、ラベルという比較的、他で代替の効かない商材をお取引いただくことで、当社を指名していただけるという利点もあります。

――ラベル印刷は比較的底堅い業種という印象ですが、近年は倒産する企業もありますね
原料価格や人件費が上がっており、以前より利益が出づらくなっているのは間違いありません。
下請け仕事のみの会社は厳しいですし、利幅を考えない安売りをしていては、ラベル印刷会社も他の印刷業同様に厳しくなると思います。

――貴社はラベルコンテスト世界一や技能五輪出場という、技術や品質面での裏付けもありますね。これは意識して行っているものでしょうか
はい。
どの会社もそうですが、工場などの生産現場はスポットライトが当たりづらい部門です。うまくできて当たり前、失敗すれば叱責されるという厳しさがあるのです。
そこでモチベーションを保ってもらうために、こういったことを行っています。

ラベルコンテスト世界一では久留米市長を表見訪問し、マスコミにも多数取り上げられた

もう一つ広報的な部分での目的もあります。
ラベルコンテストの時は久留米市長を表敬訪問し、世界一を報告しました。これには地元紙はもちろん、テレビ各局のニュース番組で取り上げられ、非常に反響が大きかったです。
その後、九州ローカルですが「世界一の九州が始まる!」という番組への出演依頼があり、当社を特集いただきました。以前その番組にこちらからオファーしたときは断られたのですが…(笑)。
こうしてテレビ番組などで取り上げていただけることは、多くの方に観ていただけるので、採用にもプラスになります。実はこれが一番大きな効果だと思っています。

「2019年度世界ラベルコンテスト」で「Best of the Best(ベストオブザベスト)」を受賞した純米吟醸「若竹屋」

 

印刷以外のネット通販も

――ネットの印刷通販である「紙箱・化粧箱.net」「ラベル印刷・シール印刷.com」も手掛けています。こちらに関しては?
これ自体で大きな売上を出すというよりは、ひとまずはお客様とのタッチポイントの一つと考えています。
というのも、シール・ラベルや箱は、他の印刷通販と違って、細かなやり取りが多く、オペレーションの手間をかけて行うのです。
何に貼るか、どういう場所で使うか、よくヒアリングしなければ、お客様の望んだものを提供できません。ですから、人員をかけて、手間をかけて行っています。

「ラベル印刷・シール印刷.com」と「紙箱・化粧箱.net」で印刷通販も

――印刷通販の場合、コスト競争中心というイメージですが、違うのですね
そうですね。手間暇をかけて品質の高いものを提供しています。
ただ、全国のお客様から問い合わせがあるので、集客の大きなエンジンになっています。一日数十件の問い合わせ・発注があり、そこから大きな取引に発展するケースもあります。
ですから、多少難しい案件や大量受注につながる場合は、通販のオペレーターから、営業担当に引き渡し、直接面談して製品の方向性を決める場合もあります。

――ネットを通じた事業では、地元産品をネット通販する「九州お取り寄せ本舗」や、食品のルール、品質・衛生管理などの情報を提供する「ショクビズ!」なども運営しています。直接印刷には関連がないこれらのコンテンツ運営の意味は?
いずれも売上を獲得するというよりは、研究・開発部門でノウハウを獲得するために行っている事業です。
包材もシール・ラベルも、食品関連のお客様が多く、この方たちにご利用いただくのと同時に、当社でもそこから得られるデータを蓄積し、ネット事業の基礎をつくっているところです。
もう一つの可能性として、参加いただいた食品会社様と密になれるというのもありまして、そこからお客様のお困りごとや課題を見つけて一緒に解決していくことが、当社の力になっています。

――知識や経験の積み上げを行っているのですね
お客様で、今後ネット事業を展開していく会社に「なるべくお金かけず」「手堅い方法」をアドバイスできるようになりました。
どれもお客様の課題を解決していく中で培ったものです。

 

異業種は課題解決の手段

――なるほど、そこで得た知識が、今年リアルの事業で展開を開始した「イノベーションセンター」に活かされています。簡単に事業を説明いただけますか?
Web制作サービスと食品検査サービスをする部門を、本社近隣の建物に移して、本格的に稼働を始めました。

Webに関する事業が拡大し別棟に事業部を移動した

――どちらも、印刷や包装という本業からは、どんどん離れていますね
そうなっていますね。
いずれも本業から出発し、先ほども申しましたように、お客様の課題を解決するうちに生まれてきた事業です。
その中でWebの人材は人数が増えて本社の中で収まりきる場所がなくなった感じです。
食品検査は、お客様から「近隣に安価でできる場所はないか?」という要望から生まれたもので、専門技能のある検査員を新たに採用しました。
ただ、当初はスーパーのバックヤードで衛生検査をするという提案をしたところ受け入れられず、かなり厳しい言葉を現場から頂いたそうです。
しかし、洗剤の正しい使い方や食中毒を出さない運営などは非常に大切なことです。当社の商品は、お客様の売り上げに比例して売り上げが上がるので、そういった事故を起こしてほしくないという思いもあり、事業開発を進めてきました。

食品検査などを行える設備。業の枠を超えた活動が始まっている

別棟はちょうど本社近くの自動車整備工場が空いていたので、そこへ新たに施設を建築したものです。
1階は食品検査理化学試験で、賞味期限の設定などを検査から算出する作業をしています。
2階はWeb部門で、当社社内はもちろん、お客様のネット関連事業のお手伝いも行います。

――2018年には「丸信インターナショナル保育園」という病児保育付き企業主導型保育園の設置も行いました。こちらは本業とは、さらにかけ離れていますが、「これは本当にすごいことだ」と記事を書いたときに思いました。あらためて目的は?
当社はもともとの体質が、朝から深夜まで働く、モーレツというか…言葉を選ばずに言えば、営業の強いブラック企業でした。
しかし、時代の変化とともにこれではいけない、社員が働き続けられないと考え、社員が安心して働けるようにという思いからさまざまな施策を行いました。
その一つがこの保育園です。
会社に保育園があれば、朝の出社前に預けていただき、気兼ねなく安心して働けますよね。お子さんの体調に変化があった時も、保護者はすぐに駆け付けられますし、病児保育を利用して仕事をすることもできます。

社員のための保育園は病児保育も可能

――健康といえば歩数によりクーポンがもらえる「歩いたらクーポン」や、線虫検査を使った「がんリスク早期発見」などの取り組みも行っていますね
以前、若い社員が病気で亡くなるという不幸な出来事があり、何よりも健康が大事という思いを持ちました。
また、体調が悪い中で働くのは苦痛ですし、効率も良くありません。

当社は今では7時以降の残業を原則禁止しています。残業禁止などルールが変わって、その大変さはありますが、企業は変化していかなければならないと思っています。

――これだけさまざまな事業に取り組んで大変さは?また今後はどのようにこれらを生かしていきますか?
どの取り組みも社員が苦労しながらやってくれています。
包装資材業者はエコシステムの中で、けっして地位が高くないというのが現状ですが、さまざまな事業へのチャレンジを通し、お客様との関係性をさらに密にしていこうと思っています。
本業での品質の高さはもちろん、コンテストなど対外的な活動でいただいた表彰で、広報を通じたプロモーションを行い、知名度を上げることも重要でしょう。今年始めた食品検査などの取り組みは、衛生面での需要が高く、お客様から感謝されるものです。
これら取り組みの結果、当社はもちろん業界全体の地位を上げて行ければとも思っています。

ラベル印刷シール印刷.com
https://label-seal-print.com/

紙箱・化粧箱.net
https://www.order-box.net/

丸信
https://www.maru-sin.co.jp/

 

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