【2022年6月24日】昨年後半から印刷・プリント業界でもDXの話題が増えている。新型コロナウイルスの影響で、一部では受注が減り、また一部では需要増にもかかわらず人手不足という会社も出ていることから、その解決策として省力化が提案されているのだろう。メーカー各社もDX関連のソリューションをユーザーに提案するケースが出てきた。
コニカミノルタプロフェッショナルプリント事業本部 プロダクションプリント事業部マーケティング部の宮木俊明氏は、スタートアップやコンサル会社で経営に携わった後、同社に入社するという異色の経歴の持ち主。また、著書『仕事はかどり図鑑 今日からはじめる小さなDX』『ひらめきとアイデアがあふれ出す ビジネスフレームワーク実践ブック』(共にエムディエヌコーポレーション)などがあり、「ビジネスフレームワーク」の専門家でもある。
その宮木氏に今回は、「ビジネスフレームワーク」や同社の提案する「DXソリューション」について話を聞いた。
――自己紹介をお願いします
大学卒業後、法人営業などを経験したのちにスタートアップで代表取締役を3年、また教育IT企業で人材・組織開発のコンサルタントを務めつつ、同社のナンバー2として法人向けのサービス事業の統括を2年行っていました。
業務はITシステムの導入とともに、研修や営業など直接、人とかかわる仕事でした。
少人数の会社の経営側で、マーケティングや営業からサービス提供実務やカスタマーサクセスまで、業務の頭からしっぽまでを一通り経験しました。
――それをしつつ著書も刊行されたのですね
仕事とのつながりに加え、私自身が便利と感じている「ビジネスフレームワーク」を効果的に使用するための考え方を共著者と共に形にしたものです。
ビジネスフレームワークは、仕事を上手く進めていくのに役立つ共通の概念を構造化したもので、現状や課題を当てはめることで、思考を可視化でき、チームの課題や打ち手を共有し仕事をはかどりやすくするものです。
私も所属しているビジネスモデルイノベーション協会が、新規事業開発などに特に役立ついくつかのフレームワークについて講座や認定を行っています。このバックグラウンドがあり、仕事に加えて著作活動も行えました。
――そこから現在の仕事への転身、今はどのようなことをされているのでしょうか
2021年9月入社以来、ビジネス開発グループのリーダーを任されており、新規事業を開発しています。
具体的には、DX提供の新規事業として「AccurioDX」と命名したデジタル印刷活用プラットフォーム構想の推進と、「PATH」というAccurioDXを実現するための顧客やパートナーとの価値共創プログラム普及を行っています。
事業では、印刷需要の創出から注文、生産、配送、効果測定までの連携を目指しています。ここでも、用途に応じたフレームワークを活用しています。
我々の顧客は従来「印刷会社」でしたから、印刷会社の業務効率向上は大切なのですが、印刷を使いたい人が増えなければ市場は拡大しないので、活用体験全体での使いやすさが重要です。目指すのは、蛇口を捻れば水が出るように「デジタル印刷がインフラとして当たり前に活用されている」姿です。
企業のマーケターが「パーソナライズされたDMを送りたい」と考えたとき、やることは「情報整理」「デザイナーへの発注」「バリアブル領域の指定」「相見積もり」「配送方法」「効果測定のツールの検証」などで、面倒くさい手間と長い時間がかかります。
これはサプライチェーンの分断やビジネスモデルの問題で、ソフトウェアやハードウェアをつなぎ、必要なソリューションを整備すれば解消できるはずです。
――それは非常に難しいですよね。さまざまな方が取り組んで、完全なものというのは見たことがありません
もちろん、最初は機能を限定し、そのフォーマット内に収める形になると思います。
ただし、大半の印刷利用者は、デフォルトで印刷を注文でき、手間なく印刷物を活用できるようになると思います。
――どのようにアプローチしますか
まだ形になっていないので、何とも言えない部分はありますが、ある程度機能を絞り込みながら、まずは活用いただき、蓄積されたデータによるAIの学習機能で、利用者の要望パターンを類推しレコメンデーションをできるようにします。
このために印刷会社やソリューションプロバイダー、物流企業、広告代理店といったパートナーとの共創の連鎖を生み出す「PATH」と名付けた価値共創プログラムを展開し、20社以上に参加いただいています。
――どこで利益を出しますか。またその座組はどのような形になりますか
AccurioDXはシステム・プラットフォームとしての構想と同時に、エコシステムを形成するプラットフォーム・ビジネスでもあります。
PATHは、「印刷発注者が感じる価値」の実証実験場となり、活動で見えてきた課題を解消できるソリューションも同時に開発されます。
当社はデジタル印刷機のメーカーですので、付加価値のある印刷機を提供することに加えて、プラットフォームの提供で「印刷ジョブを生み出すメーカー」としてファンを増やし、製品利用者を増やすことがこのプロジェクトに欠かせないマネタイズの部分です。
もちろんプラットフォーム自体での収益も考えています。当社だけでなくさまざまなパートナーとともにプラットフォームの開発と将来の収益の確保に取り組んでいきたいです。
――どこまでを巻き込みますか。コンペティターとの協業もあるのでしょうか
起点となるのは、印刷コミュニケーションの主体となるブランドオーナー企業。これに加えて、企画提案をする広告代理店や商社などがあり、それぞれ実際にパートナリングを進めています。
需要の共創に合わせ、当社のユーザーに声を掛けており、すでに印刷会社と一緒に利用者へアプローチした事例もあります。
コンペティターとの協業についてですが、当然あらゆる印刷物をすべて当社の機械のみで刷るのは不可能です。市場を俯瞰した上でWin-Winを目指し、他の印刷機メーカーとの協業や、他社印刷機への接続などもオープンに考えられるでしょう。
従来、印刷機メーカーは、高速で高品質の印刷機を提供することが付加価値だと考えていました。しかし、サプライチェーン全体をスコープに入れ、各所でさまざまなステークホルダーへのヒアリングや観察した結果、「真のデジタル印刷需要を生み出す」ところが1丁目1番地であると見えてきました。
デジタル印刷ジョブが、小ロットすぎてコストが合わない、受注や検品に手間がかかりすぎるなどの課題があることも明らかになりました。
これらにより、課題解決には、雑多な印刷ジョブが上手くこなされていく状態を作る必要があると考えます。
――具体的にはどのような形でそれを提供しますか
デジタル印刷機の一つの最終形として、無人運転があります。前後工程の自動化も目指した当社のデジタル印刷の便利さを突き詰めていくことも一つの付加価値の形ではないでしょうか。
さらにエンドユーザーには、DMやチラシなどで、読まずに捨てるものが届いています。これもデジタル印刷によって変えられます。
手紙がメールになり、LINEに代わったように、あるいは対面や電話だったミーティングがオンライン化され自由度が高まったように、世の中のコミュニケーションは個別最適化に向かって進化しています。
一方で、紙・印刷だけが取り残され、進化していないと感じることが多くあります。
例えば、高級ホテルや百貨店などの場合「お客様を大事する」というコンセプトがあるのにもかかわらず、チラシや一般的なDMは、画一的・一方的なコミュニケーションです。
私は解消できるテクノロジーがあるにもかかわらず、それが上手く使われないことを歯がゆい思いで見ています。
――DMを出す前にデータ利用などをするという感じでしょうか
そうですね。
受け取った人が価値を感じるものを、その人と紐づいた購買履歴などから類推することで印刷物が刺さるケースが増えると思います。また、効果測定をしながら、内容やタイミングなどをさらに改良していくことも可能です。
Webでは届かない、感情を動かすコンテンツを、一方通行ではないやり方で届けていくことが、紙の力を見せられる場所になるのではないでしょうか。
また、当社独自のデザイン評価サービス「EX感性」も効果的に活用し、消費者の購買行動を予測し、デザインを説明可能にすることで、刺さるデザイン制作を支援できるプラットフォームになればと考えています。
――最後に今後の展望や読者への呼びかけをお願いします
当社は商業印刷業界を中心にオンデマンドデジタル印刷機を販売し、また近年では産業用途のデジタル印刷機を開発し、印刷現場に提供してきました。
これからは、印刷発注者や印刷会社よりも先のエンドユーザーにどう印刷の価値を届けていくのかまで含めて考え抜くことが使命だと信じており、AccurioDXはその具体策となるものです。これは我々だけでは実現できないプラットフォームなので、思いを共有できるパートナーを募りたいです。
印刷会社には、機械にできることは機械に任せ、印刷のプロにしかできないことに注力する、というような仕事の仕分けを提案し、ともに発展していきたいですね。
私はAccurioDXにより新たな市場を創造し、10年後には当部門の事業規模を倍増させることを目指しています。
AccurioDXのプラットフォーム構想PATHする問い合わせは以下から
https://accuriodx.konicaminolta.com/
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