【2024年9月25日】イメージ・マジックは8月、「DTE(Direct To Embroidery)カメラシステム」の先行予約販売の受付を開始した。
新製品のDTEは、新たな刺繍の方法。白糸で刺繍したものをカメラで読み込み、上からフルカラーでインクジェットプリントするという。この発表が行われ、発売は2024年を予定している。
今回は、この新製品について、また新たなプリント方式としての広がりについて、イメージ・マジックの山川誠社長に聞いた。
――DTEとはどういうものかご説明ください
プリンタに取り付ける高精度カメラシステムで、価格は1,815,000円(税込み)です。
刺繍の場合は、これまで糸色に色数が制限されていましたが、インクジェットプリントで、刺繍の後から出力することで、完全なフルカラープリントを可能にしました。異なる色の糸を大量にストックする必要もありません。
刺繍の凹凸などもイメージして表現するため、より立体感のあるプリントが可能です。
――単純に色糸を使わずに刺繍ができるということでしょうか?
それだけではなく、今までのプリンタと違うのは、プラテン(テーブル)上のどこにどのような角度で置いても、その素材の形や位置を自動的に認識しプリントできることです。
当社の場合、刺繍のワッペンを商品として想定しているのですが、治具などは使用せず、ただ置くだけでプリントできます。
――それはすごいですね。作業の仕方が変わってしまいます
そうですね。治具にしっかり載せることや位置合わせをする工程は、作業の中でも時間のかかるものでしたが、これが不要になります。時間がかかれば、人手とコストもかかります。
もちろん刺繍の場合、色糸を組み合わせて縫う必要がないので、その分の時間やコストも必要ありません。
――DTEはどのプリンタに搭載可能でしょうか?来年発売の理由は?
日本ではブラザー工業の製品のみです。9月発売予定でしたが、細かな課題が残っているので、問題点がクリアするまで調整を続けます。
――販売はどのような場所に、また販売目標などは
まずは従来の取引先へ、内覧会や展示会を通じて紹介します。販売目標台数は年間で20~30台を予定しています。
――このシステムの導入や販売の経緯は
中国のこの装置を開発した会社でこのシステムを見て「なんてすごいものが出てきたんだ!」と思ったのが最初です。
DTG上に置くと、それだけでぴったりプリントするんです。適当に並べるだけで生産できるというのは本当に驚きで、すぐにでも導入したいと思いました。
実験工場では、白糸だけで作られたキャラクターの刺繍ワッペンをロボットがDTGプリンターに供給し完全無人化された印刷工場を作っていて驚かされました。
前々回の「ITMA」(国際的なアパレル・テキスタイルに関する展示会)で、白い糸にインクジェットでプリントし刺繍していく製品がありました。しかし、印刷スピードが遅く耐久性も良くない上に本体価格が高かった。
「DTE」は、これの上位の製品だと思ったのです。
それと同時に「技術的には誰もがまねできる」とも思いました。
イメージ・マジックでは、Tシャツプリントで省力化を推進。DTEはさらにそれを効率化に貢献する
――そうなんですか?
はい。カメラとソフトウェアなどを組み合わせたものですから、けっして技術的に難しいものではありません。
もう一つ思ったのは「なんでこれを日本の会社が考えつかなかったのだろう?」ということです。
これだけインクジェットプリンタメーカーが多く、使っている会社も多いのに、日本人は考えつかず、中国の会社が考えついてしまった。
――確かにそうですね。なぜでしょう?
これはあまり言いたくないのですが、反省の意味も込めて、日本の会社は当社も含めて発想が凝り固まっていたように思います。
「プリンタはこんなもんだ」という固定観念で作っていて、そこから抜け出せなかった。また、たとえ思いついたとしても、企画から開発、テストを経ていると何年もかかると思います。
一方、中国は早い、誰かが思いつけば「やってみろ!」となり、あっという間に商品化してしまう。このスピード感に日本はついていけてませんね。
また、開発の人数が少ない。これはある産業プリンタの事例ですが、中国の新興企業は開発者が150人。日本のメーカーは10分の1以下だそうです。とても太刀打ちできない。
もう一つ理由があって、中国では実はDTG(ガーメント)プリンタが、市場の大きさの割に売れていないのです。
――意外ですね
DTGプリンタはセットなどに手間がかかり、大量に安く作るには向いていないというイメージが中国にはあるのです。
中国の大規模工場は、できるだけ無人化したいという方針があり、プリントから乾燥、梱包までできるだけ人手をかけない。その中で、DTGのように人が1枚ずつ丁寧に位置を合わせてプリントするというのはあまり好まれない。だから、DTEのようにカメラのついたプリンタが必要とされて、特定の業界にバンバン売れています。
――「刺繍だけではない」ということですね
当然です。
刺繍は手始めで、今後は様々なプリンタにDTEが組み込まれるでしょう。すでに中国ではプリンタにカメラが標準装備になりつつあるのです。
――カメラはどのように取り付けるのでしょう?
ヘッドにスキャナー取り付けるタイプと、キャリッジ(バー)に取り付けるタイプがあります。まだ課題はありますが圧倒的に作業性が良く今後どんどん増えていくと思います。
当社の刺繍用のカメラシステムは上から一発で読み取りますが、UVフラットベッドプリンタの大判だと、かなり高い位置にカメラをつけなければ一発読み取りは難しいですね。
――もはやプリンタのあり方が変わってしまうような気がするんですが
プリンタも作業も、すべて変わっていくと思います。
「位置合わせの時間は無駄」というのが、業界の標準になるでしょう。印刷制度の求められるグッズなんかもポンポン置いていけば、プリントできます。メダルのようなものは、凹凸に合わせて自動で寸分の狂いもなく出力できます。
アクリルグッズなども作業の順番が変わります。これまでは「プリントしてからカット」することが一般的でしたが、カメラ付きUVプリンタを使えば「カットしてからプリント」してもずれることはありません。先にカットし後から印刷した方が生産効率も良くなります。
そして、治具はこれまで購入するか、各社がレーザーカッターで作成する必要がありましたが、徐々になくなっていくと思います。アクリルの治具を作っていた会社は事業の転換を迫られる時が来るでしょう。
――完全なパラダイムシフトが起こりますね
中国では「産業転換」と言っています。ものをつくる順番が変わり、管理の仕方も変わるのです。プリンタは、カメラ標準搭載の時代が遅かれ早かれ来ます。
品質の良いプリンターだけでなく省人化省力化に貢献するプリンターが求められるなかで、延々と企画会議をして、テストをして、そして商品が出てこないメーカーはかなりまずい。導入を先送りにするコンバーターも苦しくなってしまうでしょう。
――どうすればいいでしょうか?
深く考えることも必要ですが、今は早く動かなければ時代から取り残されるので、まずは動きましょう。
政府が2030年代半ばまでに、最低賃金を今の倍の1500円にすると言っています。連合も2035年に1600円〜1900円を目標に掲げています。つまり自動化や省力化しなければ、どんどん賃金コストが上昇していきます。
プリンティングの業界は、カメラシステムも含めて自動化を推進し、コストを下げ生き残りを図るしか道はないと思っています。
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