【2023年10月17日】キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)とキヤノンプロダクションプリンティングシステムズ(キヤノンPPS)は8月下旬、64インチ(約1.6m幅)対応UV硬化型大判プリンター「Colorado(コロラド)M5」「同M5W」を発売した。
新製品は、主にサイン&ディスプレイ市場向けで、新色の白インクと新型メディア検出センサーを搭載している。
日差しぶりのこのシリーズだが、今回はこの新たなマシンを設置しているキヤノンPPSの品川デモセンターを訪問した。
品川デモセンターに設置された「Colorado(コロラド)M5W」
キヤノンMJとキヤノンPPSは2018年4月、UV硬化型大判インクジェットプリンター(IJP)「Océ Colorado 1640」を発売した。
つづいて、2020年1月には「Colorado 1650」を、比較的早いテンポで発売している。
「Colorado」シリーズは、2010年にキヤノングループに仲間入りし、2020年には社名を「キヤノンプロダクションプリンティング」に変更した「オセ」の技術が使われている。
オセは本社をオランダに置き、独自の技術でインクジェットプリンターを開発・販売し、日本でも日本オセが営業活動を行っていた。キヤノンは主に水性インクジェットプリンターに強く、一方でオセは大判プリンターではUVインクに強みがあり、キヤノンとオセが手を組むことはこの点で意義のあるものだろう。
2020年に発売された「Colorado 1650」。サイン制作での要望に応え課題を解消している
「Colorado」で特徴的なのはUVジェルインク。このインクはその名の通り「ジェル(ゲル)」状で、その粘度の高さからドットゲイン(滲み)が少ない上、UVインク特有の厚みを抑え、色の安定性が高いという特長があった。
一方で、「1640」では一部のメディアにインクが定着しづらい、伸びがなく割れてしまう、といった課題も抱えていた。
キヤノンPPSマーケティング部課長の野呂浩司氏は「『1650』ではこの課題を解消し、さらにインクを変えずにUV照射のタイミングを変えることでグロスとマットの打ち分けも可能にしました」と話す。
キヤノンPPSマーケティング部課長野呂浩司氏
照射に関しては、グロスは遅いタイミングで1回、マットは早いタイミングでUV光を使用することで、テクスチャーのような雰囲気を表現する。
光沢のあるグロスと、ツヤを抑え落ち着きのあるマットを1つのインクを使い、1枚のメディアの中で打ち分けられるのはジェルインクという粘り気の強いインクならではのこと。これにより、デザインにニス引きで作ったパターンのような表現が可能となり、演出の幅が広がった。
インクの割れという課題も、成分を改良し伸びに強くし解消。メディアを曲げても割れて落ちることはなくなった。
このインクの「粘り気(粘度)がある」という特性、速度やインクの打ち分けでは力を発揮するが、もう一つの課題がある。
それは白インクの搭載だ。白色は、透明や色の濃いメディアを使用する際、ベースとなり他の色を引き立てる役割を果たすことから、サイン・ディスプレイ業界では特に必要とされている色。
サイン・ディスプレイで必要とされる白インクを搭載。透明メディアにも対応した
しかし、白インクはその成分からUVタイプでは特に固まりやすく、インクヘッドの詰まりの原因となることも多い。
第3世代となる「M5W」ではこの課題を解消し、搭載を実現した。
さらにヘッドメンテナンスもほぼフリーで、月1回程度の清掃をするだけで済むという。
同社マーケティング部の関航輔氏は「サイン・ディスプレイ業では絶対に必要で、ユーザーからも要望の多い機能でした」と白インク搭載について述べる。
キヤノンPPSマーケティング部関航輔氏
野呂氏は「白色を入れて、固まらないようにしながら、生産性を落とさないというプリンターを開発することは非常に難しいものでした」と開発時のハードルを教えてくれた。
このように進化を続けてきた「Colorado」シリーズだが、一貫しているのはその生産性の高さ、ハイクオリティーモードでもグロス40㎡/h、マット27㎡/h。スピードモードのグロスでは80㎡/hでの印刷が可能。しかもUVインクであるため溶剤系のようなエイジング(乾燥)時間は不要で、出力後はすぐ後加工に回せる点でも生産性を向上する。
このサイズを数分で出力可能
関氏は「他社に比べインクの使用量を最大40%節約することができることも特長です」と自信を見せる。これも粘性のあるインクで、インクの中に水や溶剤など揮発・蒸発させる成分が無いことにより実現している。
白インクの登場に合わせて、新たに搭載されたのが「新型メディアセンサー」で、白インクがよく使用される「半透明」や「反射」「マグネット」のメディアに対応した。
これによってもメディア対応力が広がり、ユーザーの要望に応えられるようになった。
記者が気になったのは新製品の型番。これまでは「1640」「1650」というひと続きの番号だったのに対し、今回は「M5」「M5W」といきなりの変更。「M」とは何なのだろうか。
野呂氏は「Mシリーズの『M』はモジュラーのM」とのその答えを教えてくれた。「グローバルでは『M3』というエントリー機も用意しており、最小構成で導入しても、あたかもモジュールを追加するように、速度アップグレードや白インク搭載などの機能を追加できるのです」。
「M5」もモジュラーの追加で白インク搭載の「M5W」に変更可能だ。
では、なぜ日本では「M3」の発売がないのかという質問には「日本では最初からハイエンドを求められるユーザーが多い傾向があり、まず『M5』を発売しています」と野呂氏。
搭載されたインクタンク。ホワイトは後から追加することも可能
「Colorado(コロラド)M5」「同M5W」は、発表後の反響も上々。7月後半の時点でユーザーからの要望で30種類ほどのメディアをテストし、評価を行っている。
キヤノンPPSは同機の市場を、サインやディスプレイのほか、生産性の高さから、ハイボリュームで世界市場のある壁紙などの建材なども想定しており、幅広いユーザーへの訴求を検討する。
今後は、10月の「サイン&ディスプレイショウ2023」などでデモンストレーションするほか、東京都大田区のキヤノン株式会社本社内にある「Customer Experience Center Tokyo(CEC Tokyo)」でも既に常設展示されている。
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