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【ちょいとコラム】記者が「業界人」にならないと決めたのはなぜか? 高校野球の失敗に学ぶ

【2025年8月28日】プリント&プロモーションは、この6月で開設から10年を迎えた。
その中でいつも気にしていたのは「業界人にならない」ということだ。

この夏、好ゲームが多かった高校野球甲子園大会。しかし、大会の開始から話題をさらったのは広島代表の広陵高校による暴力疑惑と大会出場辞退とその後の一連の混乱だ。
疑惑の真偽は明らかになってはいないが、学校と高野連の対応のまずさ、不適切な対応が浮き彫りになったといえるだろう。

この高校野球というのは、各高校とその生徒、生徒の家族が手弁当で作り上げているものだ。選手の育成も移動も宿泊も、すべて参加者持ちで、高野連は出演料を払う必要がない、つまり高野連側は場所の提供や人員の配置以外は持ち出しの少ないコンテンツだ。それをNHKに売り、朝日新聞や毎日新聞が協賛金を払ってくれる非常に利益性の高いシステムである。

学校側もメリットがある。
テレビで多く取り上げられることによって、学校の名前が売れ入学者が増える。教員も「有名校なら」と優秀な人材が集まるのだろう。このために甲子園出場は学校の目標になる。いや、今回問題になった広陵高校をはじめ強豪校の場合は「学校の存続=甲子園出場」というほど絶対の命題なのだ。

こうなってしまうと、学校のための野球部なのか、野球部のための学校なのかわからなくなる。

広陵高校は、次々に判断を誤った。まず大会への出場。SNSで告発のあった時点で取りやめるべきだった。選手の中には疑惑の当事者もおり、全国に顔が晒されることとなった。もちろん、一番の責任者である監督の堂々とした姿やインタビューも物議を醸した。

炎上し始めてからの校長の対応も残念なものだった。保護者と選手を集めて説明会を開き「何も質問がなかったからわかってくれた」というコメント。選手も保護者も立場を考えれば何も言えなかったのだろう。

高野連は出場を認めたのがそもそもどうかしているが、その後も「(暴力事案を含む)通報は毎年1000件以上(だからいちいち出場停止にできない)」という驚くべき数字で自己弁護を始めたり、秋の大会には広陵高校を出場させたり、想像の斜め上を行く対応で、人々を呆れさせている。

さて、なぜこのような世間とズレた炎上を彼らが起こしているのか?
それは彼らが「業界人」だからだ。
昔はそれでよかったのだ、その業界内だけですべてが処理されて、内部の不満も不祥事も、言葉を選ばずに言えばもみ消されていた。しかし、ネットとSNSの発達でその声が無視できなくなったのだ。
一方で業界人の彼らはそのことに気づいておらず「今まで通りやれば問題ない」「どうせ誰も相手にしないだろう」と思ったのだろう。しかし、そうはならなかった。

バカバカしいことに広陵高校の校長は「SNSなどにより生徒の安全が確保できなくなったから出場を辞退する」と述べたが、これは間違いだ。暴力があり→告発され→炎上が止まらなくなり学校のブランドを棄損し始めただけだ。「暴力行為があり、それが問題視されたために、火消しのために辞退します」とは言えないからこういった著しく整合性を欠く言葉が出てきたのだ。

業界人というのは、その世界の中では重要視され、特別待遇を受けられる。それにあぐらをかいてしまうと、高野連や広陵高校のような誤った判断を起こす可能性があるのだろう。
彼らはアフターデジタルの世界を理解できていないともいえる。アフターデジタルの世界では、デジタルですべてがつながっており、業界内に逃げ込むことは不可能なのだ。

だから、記者は「業界人にならない」ということを心に決めてきた。業界の少し外側にいなければ本当のことを言えないし、外側から見ることでその変容を察知できるとも思っている。

そして、他の業界同士をつなぐハブになることを目指しており、このためには業界の外側にいる必要があるのだ。

年初に「『2025年新春大予言』今年起こりそうな3つのこと!」という記事を書いたが、この中でも「業界」ではなく「界隈」の人になるべきと書いた。実際、業績を伸ばしている会社は業界にこだわらない界隈人が経営しているケースが多い。プリンティングもすれば、自社ブランドで商品を小売し、機械販売もし、中にはラーメン店を出す会社もある。業界内から飛び出し、次のステージに向かうべきだ。

そして今年は、変わり目が見えてきた年。プリンティング業界は、いよいよ変革が来る。それもいい方向に変わるばかりではない。こういうことは業界の中にいると見えないか、見えていても書けないかもしれない。

プリント&プロモーションも少しずつその内容を変えていこうと思っている。勘のいい方はすでに変わり始めていることに気付いているかもしれない。今後を楽しみにしていただきたい。

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