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【drupa2016 レポート4】「ロボット」で見えてきた!? drupaのテーマと印刷業界の未来

【2016年6月17日】前のレポートから「drupa2016」を象徴するようなテーマを探ってきたが、それはいったい何だったのだろう。
展示を印刷会社の方たちとともに見る中で感じたのは、すでに機械単体、技術単体の能力が優れているだけでは、印刷会社の経営者やオペレーターの購買心は動かないだろう、ということだ。

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前回紹介した印刷から後加工までのインライン生産は提案されているのだが、それも最終的な答えではないと感じる。

自動化・無人化へ

さて、そんな今回のdrupaの展示で目立ったのは「ロボット」だ。
ロボットアームが印刷機やプリンタの横に据え付けられ、枚葉の紙やグッズなどの上げ下ろしをする姿が会場の各所で見られた。
また、製版をフルオート、搬送から後加工を自動化などという機器のデモンストレーションにも多くの来場者が足を止めた。

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そしてその目的は「自動化・無人化」だ。
「印刷業界は人手が多い業界」と言っても業界内にいるとピンとこない方も多いかもしれない。
大手清涼飲料メーカーや食品メーカーなどの工場を見学すればわかるが、製造の現場にはほとんどもしくはまったく人がいない。ほぼ自動で商品が充てんされ、パッケージを付けられ、箱詰めされ市場に送り出されている。
それに比べれば、印刷会社はどの工場も手作り感満載だ。

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もちろん「工場の規模が違う」「作っているものが違う」という意見があるのはわかる。
しかし、実際ヨーロッパでプリント関連の工場を見学した際に驚かされたのは、無人化、自動化が思った以上に進んでいることだ。それも従業員100人以下の会社での話だ。

ある会社では、名入れしたグッズのアッセンブリをロボットが行い、別の会社では大判のプリンタを自動化し、11台を1人のオペレーターが動かしていた。
背景にはヨーロッパの人件費の高さと、労働基準法の厳しさがある。
社会保障費を含めた給与を払い、厳しい法律の中で人を雇うより、初期投資は必要なもののその後は壊れるまで、給与もいらず、文句を言わず仕事を続けてくれるロボットやコンピュータを導入したくなったというのが経営者の本音だろう。

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デジタル印刷機の登場により、印刷の技術的参入障壁はかなり低くなった。デジタル機であれば、色替えや版替えなどは基本的には必要なくなった。また、印刷から後加工までのインライン化も進む。
最後は、印刷や加工をつなぐ作業部分の自動化と無人化に焦点が絞られるのは当たり前と言っていい。
そして、高い人件費という課題を抱えているのはヨーロッパの印刷会社だけではない。

すべての印刷工場から人が消えるなどとは言わないが、簡単な荷物の上げ下ろしや製品組み立て、仕上げ、封入など、印刷の間にある細かな作業が自動化に向かうだろう。そして、これらを達成した会社の競争力は大幅に上がる。

「HP Print OS」の登場

デジタル化から自動化・無人化の流れがあることを報告したが、この流れに沿うもう一つの大きな発表が「drupa2016」ではあった。
それが「HP Print OS」だ。

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HPではこれを「印刷工程管理を簡素化、自動化するHP PrintOS」と言っている。
システムはクラウドベースで活用できる印刷工程の最適化アプリケーションで、生産工程全般の最適化から色管理、保守などの印刷全般をバックアップする。

さらには各ユーザーから上げられたデータをHPが一括管理しビッグデータ化。どこにその工程の無駄があるかなどを精査し、情報を提供できるため、ユーザーの「稼働率」や「生産性」の向上を図れるという。
色管理もHP PrintOSを導入していれば、異なる場所にある工場や他社でも、色合わせが可能となる。また、ブランドオーナーとの情報共有もこのシステムを使えば可能という。

そしてこれがすべての「indigoユーザー」「PageWide Web Pressユーザー」には基本的に無償で提供されるというのだ(大判プリンタなどでは2017年から無償提供を開始)。
同様な無償アプリケーションの展開はKBAも「KBA4.0」で行うようだ。

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デジタル化により、アナログマシンではできなかったビッグデータによる最適化ができるようになった。色管理や生産は自動に近い形で最適化され、この仕組みを持った会社は生産コストをさらに下げることが可能だろう。
一方ですべてのビックデータを管理し、閲覧できるのは、機材メーカーのみということになる。

HPなどの一部デジタル印刷機メーカーのアピール先は、印刷会社はもちろんなのだが、ブランドオーナーという面も見えてくる。印刷会社はさらに先の消費生活者まで見据えた展開をしなければ、その存在価値が薄れていくかもしれない。

あくまでも個人の意見だが、「drupa2016」の大きなテーマの一つは「自動化・無人化」だったように思う。
これが読者にとってチャンスになるか、ピンチになるかはわからないが、比較的見える形でこの流れが進んでいくだろう。

ひょっとして、数年後のdrupaではロボットがたくさん用意され、それらが展示会場を歩き周り、VRで世界各地から「来場者」が場内を見学するようになる日が来るかも…。
つづく

【drupa2016 レポート1】来場者は全盛期の半分近くに!? 現実を直視して未来にタッチ

【drupa2016 レポート2】テーマを総点検 設定された未来は示されたか?

【drupa2016 レポート3】本当のテーマを探る 性能・機能の向上はあたりまえ?

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