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【工夫と創造この企業】「デジタルスマートファクトリー」で3社のデジタル印刷機を集約 NTT印刷、広済堂ネクスト、福島印刷

【2022年8月10日】NTT印刷と広済堂ネクスト、福島印刷は昨年9月、業務提携契約を締結。NTT印刷入間工場内の「デジタルスマートファクトリー(DSF)」で、デジタル印刷機を最大4ライン同時稼働させている。

広済堂と福島印刷は、2015年6月に業務提携契約を締結。シェアモデル・マネジメントによるコストとリスクの低減、競争力強化を図ってきた。2022年からは、このスキームにNTT印刷が加わり、3社が連携することでさらにこのモデルが進展した。


NTT印刷入間工場内の「デジタルスマートファクトリー(DSF)」

印刷会社同士の提携による印刷機シェアは、機械や人材、技術の補完による相乗効果が期待され、注目を集めている。
今回は実際にこれを始めた3社の現状や今後について探る。

 

異なる3社が結集

今回のシェアモデルは、デジタル印刷機を3社でシェア活用することで、「キャパシティUPや相互の稼働率向上が実現できるための企画」としてスタートしたという。3社はもともと取引があり、その点でも比較的スムーズに連携できた。

3社は得意分野がそれぞれ異なる。
広済堂は、大手出版社との太いパイプがあり、出版印刷や冊子印刷技術に強みがある。デジタル印刷に関しては国内最高水準のカラーマネジメント技術を保有。近年はBPOサービスも展開している。

福島印刷は、企画提案を得意とし、DM(ダイレクトメール)などのメーリングサービスが強みだ。また、one-to-oneドキュメント自動生成と、バリアブル印刷を組み合わせ、DMをまとめて生産するメーリングソリューション「パックサービス」により、短納期発送や価格低減を実現している。

NTT印刷は、NTTグループ唯一の総合印刷会社。NTT請求書や官公庁・金融機関の顧客を中心とした大量の通知物の発行に数多くの実績を有し、封入封緘技術や品質・情報セキュリティに強みをもっている。近年は、DXやBPOサービスでも力を発揮する。
この異なる分野の印刷会社が仕事を持ち寄ることも、大きなシナジーを生む。

一方で、共通するのは「Truepress Jet520 HD」の導入企業であるという点。設備は3社で「Truepress Jet520 HD」を各1台ずつの3台、同じクラスの印刷機が1台で計4台がメインのデジタル印刷ラインだ。

福島印刷が石川県金沢市の本社に同型のデジタル印刷機「Truepress Jet520 HD」を保有していることから、BCP(事業継続計画)の観点からも、石川県と埼玉県という2拠点での生産体制構築をすることは意義が深い。

NTT印刷は同工場に、全国から集まった研修生を含めた約30人が勤務しており、そこに広済堂からは4人、福島印刷は8名を派遣し、今後仕事の規模により、この人数を増やしていくという。

広済堂では「シェア生産を行うにあたり、福島印刷と同じ印字品質が得られ、自社が希望しているオフセット用コート紙に印字できる条件を満たした機器を導入する必要があった」と振り返る。
シェアの利点は、やはり「メーカーのメンテナンスでの技術や部品共有が可能になったこと」で、トラブル時の原因と対策なども共有でき、この点でもメリットは大きい。

また、3社が集まることによって、圧着DMであれば数百万通、ロール紙で100本を超えるようないわゆる「メガロット」の対応が可能となり、オフセット印刷機と比較して多少速度が遅いデジタル印刷機でも、高速で大量に印刷物を供給できる。
実際に2022年初に印刷を福島印刷、製本をNTT印刷で展開して、大量品の納期対応を行った。

 

シェアモデルの形

一方で、シェアに当たっては、3社の運用ルールや品質基準、セキュリティーポリシーなどが微妙に異なり、「そのすり合せでは苦労した部分もあった」という。
このモデルの収益や利益配分は、3社協議で「シェア生産単価」を決定。この単価の中での収益については、各社の生産体制で配分が決まる。
「シェア生産単価」とは、設備を1分間使用した場合の単価を決めておくことで、印刷物の種類に依存せずに、価格決定する仕組みだ。
また、インクや用紙などについては、シェアを依頼する側では用紙とデータのみ支給している。なお、シェアは顧客から了承を得た上で行う。

稼働率は「まだまだこれから」としているが、各社の得意とする仕事が異なるため、後加工などの幅が出た。このため、これらを活用したシナジーが期待され、他社のサービスや技術内容を自社の営業先にクロスしながらマーケティングすることでの相乗効果が生まれそうだ。

伸ばしていきたい分野を各社に聞いたところ、広済堂は「高画質を活かしたカタログやDMなどONEtoONEの付加価値のある商品。印刷だけではなくBPOを含めたトータルでのサービス」と答えており、「需要に合わせた新たな商品や管理方法などを学びたい」と話す。

また、福島印刷では「封書サービスを拡大したかった。DSFへの移転を機に、サテライト工場における封書の供給体制が整った」としており、技術開発については「まったく新しい技術開発は次のステップ。今は品質の 安定や生産性の向上など、現場による地道な取組の徹底を行っている」という。
さらに「3社によるシェア モデルマネジメントの絵は描けた。その絵を実現するために、現場レベルで 細かい論点を抽出し、3社で協力し一つ一つをつぶしていく」とコメントする。

NTT印刷は「今後はバリアブルDMに注力していきたい」とし、「マーケティングオートメーションツールと連動したダイレクトメールの展開に取り組むとともに、まずは3社連携のもと品質、生産性の安定、向上に取り組む」と、こちらもまずは地固めの段階であることを強調する。

コロナ禍で、商印特に小売・旅行系は低迷し厳しいスタートとなったが、徐々に需要は回復しており、今後はさらに受注の上昇を見込む。
さらに各社の技術レベルアップにより、共同での新商品開発なども行うとしており、数量的には従来以上のメガロットの対応なども予定する。

 

 

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