【2023年9月1日】ファッションビジネス学会デジタルテキスタイル研究部会は8月31日、東京都新宿区の文化学園大学とオンラインで「2023年8月 Digital Textile Conference」を開催した。
同コンファレンスは毎回、デジタルテキスタイルの技術や市場に関して技術者や学識者が講演を行っている。
今回は今年6月に開催された国際的な繊維機械の見本市「ITMA2023」の話題を中心に「ITMA&FUTURE」のテーマで行い、「ITMA」に参加したビジネスパーソンや識者が登壇した。
第1部「ITMA REPORT」では、ITMAの視察者が講師となり、同展示会をレポートした。
第1講
縞猫商会代表の松井康祐氏は「ITMA2023ミラノで見えた、テキスタイルプリントの未来」の演題で講演。ITMAの概要から今回の特徴などを解説、欧州の現状などにも触れた。
まとめとして「前回まではECとの連携や、オンデマンド生産など、サプライチェーンとの連携の話が多かったが、今回は少数。顔料の画質は向上したが、サプライチェーンとの連携なしに染料から顔料への置き換えは難しい。サステナブルが顔料プリントへの原動力になるかは不明」と述べた。
さらに「印画速度競争は終わり、安定稼働と、付加価値がこれからのブリンタの原動力。顔料プリントの普及は不透明だが、サプライチェーンと連携によって浸透は可能か」としている。
第2講
法政大学国際日本学研究所(兼任)経営学部の岡本慶子氏は「顧客側から見たITMA」のテーマでこのイベントを以下のようにレポートした。
メーカーはブースで「環境」「価格」「生産性」をプリンタ販売のコンセプトにしているが、「誰に向けて」「何を」「どのように売りたいか」について、テーマを作って打ち出してほしい。
また、苦手なことを見せないデザインなどで、濃い色が出ない、出しづらい色域などをごまかしている部分がある。
日本の繊維・アパレル業界の問題点をあげると、問屋・アパレルはインクジェットプリントを理解していない。一方でインクジェットを知っている人は資本が無い、ITができない。
起業家は、問題点の存在自体を知らない。ITの技術者はインクジェットプリントや繊維の知識が無い。
これらをつなぐインクジェットメーカーに期待したい。
第3講
「プリンターユーザーから見たITMA」では、大本染工社長の濱野公達氏が講演。
同社は2000年にコニカミノルタ「NassengerⅡ」を導入以来、デジタル捺染に取り組んでおり、現在はセイコーエプソン「ML8000」など、8台のデジタル生産機を導入している。
濱野氏はITMAでほしいと思った機械は3つ。
素材対応力向上が必要だが「ミマキエンジニアリング 顔料転写」、アナログ設備の代替となりうる「セイコーエプソンML16000HY」、白顔料搭載による新しいデザインの可能性を感じる「コ―ニットPrestoMAX」とした。
さらに「顔料は白がないと勝負にならない。白があれば濃度などを気にしないでいい」とし「テキスタイルで顔料は普及しっこない、全面に吹くのは風合いが違って無理。Tシャツなら一部へのプリントだからOK一部だろう」とした。
顔料IJに関する雑感としては「大渋滞」とし、メーカーが言うことは同じなので、安い機械で十分ではないかとした。
自社の損益計算書を見せた上で、変動費が多く限界利益が非常に高い一方で固定費も高いことを示し「導入方式にリースなど幅広いあり方があってもいいのではないか」と提案した。
第4講
第4講は「プリントサンプルの紹介および展示(名刺交換,休憩含む)」でブラザー、エプソン販売、コニカミノルタが自社のサンプルを展示しこれを説明した。
また、講演を行った法政大学の岡本教授も、アナログプリントの貴重なコレクションを出展。1950年代のカネボウプリントや抜染、箔プリント、ヨーロッパの図案などを提示し、「デジタルプリントの開発に役立ててほしい」と呼び掛けた。
第2部「FUTURE」では「ITMA2023」から見える今後について識者が講演した。
第5講
繊研新聞の中村恵生は「デジタルテキスタイルの未来に期待すること」で、現在のテキスタイル市場をマクロな視点から紹介した。
「消費はメガトレンド不在」で、トップガンのころのフライトジャケット「MA1」のような大きな流行がなくなり、価値観の多様化し、男女の境界がなくなっている。
ダサいや流行遅れもなくなり、ドレスコードやルールが希薄になっている。
だからと言って、個性的、自分だけの一着というわけではなく、服飾専門学生の好きなブランドにユニクロやザラ、ジーユーが入っており、ベーシックを組み合わせたファッションでもよくなった。
人はパラレルワールドで、一人ひとり別の世界に生きている。
ここで考えるのは、「機械メーカーは生活者のワクワクに貢献できているのか」というポイントが欠けているのではないか。
ただし、クラウドファンディングにお金が集まるように、見えづらいだけで商機はある。少量でマニアックなものが多種多様に売られており、積み上げれば大きな消費になるはずだ。
第6講
コニカミノルタプロフェッショナルプリント事業本部産業印刷事業部テキスタイル事業推進部の稲田寛樹氏が「デジタル捺染業界のレッドオーシャン化と将来へのプラスアルファ」のテーマで講演。
これまでのデジタル捺染業界の変遷として、「量産実用化」から「高速化」を経て、現在は「環境・差別化」などがテーマとなってることを紹介。
「どうやってメーカーが勝ち残っていくかを考えるITMAとなった」とした。
アパレルブランドオーナーの動向として、「市場投入までの期間短縮」「廃棄リスクの低減」「サンプルがバーチャル化」「オンライン販売の増加」などをあげた。
この結果、「アパレル規格のバーチャル化は進行」「店頭サンプルが減りプリントが減る」「生産サプライチェーンの問題が顕在化も従来の生産エコステムに依存」といったことが起こっている。
マクロ視点での総括では「製品性能の差は縮小」「中国ベンダ―がグローバル展開し、サービスへの積極投資を行っている」などがある。
国内ベンダーは幅広いテキスタイル関連アプリケーションがあることから、まだまだやれることはある。「我々がしなければならないのは『現場における泥臭い改善』『お客様との共創✕優位性を保てる領域の積み上げ』」「今後を業界を支えていくのはプロフェッショナル人財、テキスタイルは面白い」と締めくくった。
第7講
最後に、オンライン講演で「MAS technology and the future of digital textiles」のテーマでMAS S.r.l. チーフソフトウェアデベロッパーのロバート・ウザイ(Roberto Usai)氏が講演した。
講演では、プリンタメーカーとしての同社の歴史や開発した製品、マスタープラン、今後の課題などを紹介した。
デジタルテキスタイル研究部会
https://digitex-bukai.com/
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