【2024年4月2日】ローランド ディー.ジー.㈱(ローランドDG)は昨年11月、静岡県浜松市の本社新社屋での営業を開始した。
新社屋は、旧社屋の近隣に建設された3階建ての施設で、同社のパーパスである「世界の創造(ワクワク)をデザインする」を具現化したものという。
1階のエントランスホールには、自社のプリンターや切削加工機などで作成された多くのアイテムを展示。商談用のテーブルなどが用意され、カフェ機能もある。
2階、3階は基本的に社員のスペースで、準フリーアドレス。開放的な窓際や集中できる半個室席、チームのメンバーと話ながら仕事が可能なボックス席などを用意している。
いずれも開放的な空間で、外光を多く取り入れており、窓からは近隣の公園や山々などの自然も見える環境だ。
ローランドディー.ジー.田部耕平社長
今回は新社屋のオープンや昨年からの積極的な新製品の発売、また今後の展望、また自身の経歴や考え方のもとになった幼少期の経験などを、同社の田部耕平社長に聞いた。
――新本社建設の経緯やその意義についてお聞かせください
本社に関しては、旧本社が老朽化していたこと、本社隣接の土地に空きがあったことなどといった要因がありました。
また、効率的にこれから仕事をしていく上で、新たな設備が必要であることを東京オフィスの移転で気づいたこと。また、新たな仕事をしていく上でシンボリックな建物も必要でした。
昨年11月に完成した新本社屋。同社のパーパス「世界の創造(ワクワク)をデザインする」を形にした。
――本社建設を考えられたのは2020年と聞きました。新型コロナウイルス感染拡大の最中でした。躊躇はありませんでしたか?
それはありませんでした。
逆にコロナ禍で、企業本社のあり方が変わったというのは間違いないでしょう。
在宅勤務やフレックス勤務など、仕事の仕方が多様化し、その中に会社に来て仕事をする選択肢があるという風になり、これに合わせて、本社も設計する必要がありました。
また、当社のパーパスである「世界の創造(ワクワク)をデザインする」の「ワクワク」を、社内の各フロアに落とし込み、「会社に来て仕事がしたくなる雰囲気づくり」というテーマも盛り込みました。
――社内全体、そして各フロアの設計も社長がされたのでしょうか?
いえいえ、各フロアに担当者を置いて、幅広い視点から、それぞれのフロアにあった形式の仕事環境を提案してもらいました。
各フロアに無料でコーヒーなどを飲めるサービスを設置していますが、これが人気で人が集まる場所になっています。何かを飲みながら、ゆっくりと話をする雰囲気ができて、社員同士の会話するシーンは増えていると感じます。
――あの畳のある和室なんかいいですね。働く場所で傾向はありますか
各人それぞれ、好きな場所で仕事してもらっていますね。
若手は割と、窓際の出窓やレストランのテーブル席のような場所で、年配の社員は落ち着くのかオフィスで仕事するケースが多いようです。
外光を広く取り入れられるように窓を大きくしているので、私自身は四季を感じながら仕事ができるのが嬉しいです。
――耐震性なども気を使われたそうですね
耐震基準の1.5倍程度で建設しました。また、非常用発電装置を設備しており、給電がなくても1カ月間は営業が可能です。
――先ほどお話が出ましたが、貴社パーパス「世界の創造(ワクワク)をデザインする」とそのビジネスについてお教えください
中期計画などでは、ワクワクさせようというのは伝えてきたのですが、パーパスという明確なものにしたのは2023年の新年のあいさつからです。
今の市場は「性能がいいから買う」「安いから買う」ということはなくなっていると思うのです。
「これを使って何がつくれるのか?」という創造性と、その先の「ワクワク」に対価を支払いたいという意識の方が増えているのではないでしょうか。
――先日、人気ゲーム実況者グループ「オレ達の遊ビバ!(オレビバ!)」限定販売ゲーミング・オーディオミキサー「BRIDGE CAST」(ローランド製)でコラボレーションされていました。あれもワクワクから出たものですか?
そうです。あの企画は入社2、3年目くらいの若手社員が中心になって行ったものです。こういった企画が出てくることは非常に良いことだと感じます。
ワクワクと言うのはそれを感じる観点はバラバラで、私と若手でも違うし、他の社員とも違うし、それがいいと思うのです。
どれが、どのビジネスに結びつくのか見極め、しっかりと企画でき、それが付加価値につながるなら、ぜひ事業にしてもらいたいですし、これらは他社との差別化につながるはずです。
そこにあるキーワードが、この「ワクワク」なるという風に私は信じています。
人気ゲーム配信者とのコラボで生まれたミキサーのプリントはローランドDGのプリンターで行った
――昨年から今年にかけて、大判プリンターについて「UV」「レジン」「溶剤」「DTF」などについてラインアップを整えられました。概況をお教えください
搬送方式では、ロールが中心で、インクは溶剤系が依然としてプリント事業の柱となっています。
一方で、UV系も伸びており、今年1月UV-LEDフラットベッドインクジェットプリンター「VersaOBJECT MO-240」を発売するなど、製品を充実させています。グッズ製作などのデジタルファブリケーションが伸びており、それに対応したUV系の製品を揃えています。
またレジン系の「TrueVIS AP-640」などは、インクの環境認証を得るなど、エコ対応が求められ始めている市場で必要な製品です。
DTF(Direct To Film)では、当社初のDTF(Direct To Film)プリンター「VersaSTUDIO(バーサスタジオ) BN-20D」に続いて、速度の速い「BY-20」もラインアップしています。
田部社長。今年1月発売のUV-LEDフラットベッドインクジェットプリンター「VersaOBJECT MO-240」の前で
――展示会などサイン系は出展しないなどの色分けがされている印象があります。サインは成熟していると考えていますか
そうではありません。展示会は来場者数やその属性などから、最も効率的に出展できるものに絞っています。
今は、新しい分野としてデジタルファブリケーションや壁紙などに力を入れており、昨年はリトアニアのVEIKA社と合弁会社を設立しました。彼らの持つ壁紙材やインクの技術は、出力後に熱をかけることでメディアが膨らむエンボスのような効果を得られ、壁紙用途などでの活用が可能です。
こういった力を入れる分野なども積極的に出展していければと思っています。
――先ほどお話が出ましたが、タイへの量産機能の移管はどのような経緯からでしょうか
これまでは日本とタイの2カ所で生産していましたが、効率的ではありませんでした。2020年、コロナ禍がありスリム化が必要でした。
タイ工場は、バンコクから比較的近い場所で、ものづくりの基盤はそろっており、工場の隣接地に空地もあったことから増床も可能でした。
このことから、日本からすべての量産設備を移したのです。
同社は生産をすべてタイ工場に移管・集約している
――市場としてもアジアなど新興国が中心に?
もちろんアジアは市場の一つです。
昨年から、開発のプロセスを変更し、製品のプラットフォーム化を推進。製品の基本パーツを統一するなどの施策で、基本設計を同じにしたことで、エントリーモデルからハイエンドまでを作り分けられるようになりました。
新興国向けでは、溶剤系の地域限定ブランド「DGXPRESS(ディージーエクスプレス)」を投入し、新たな顧客を開拓しています。
新興国では、やはり低価格なものが求められるので、二つのヘッドを一つに減らす、タッチパネルを排除するなど、引き算の設計でコストパフォーマンスの高いものを提供しています。
――少し田部社長ご自身のお話を少し聞かせてください。幼少期を米国で過ごされたと聞きました
はい。父の仕事の関係で、中・高校時代を米国アーカンソーの田舎町で過ごしました。
田舎の学校で日本人はおらず、現地の学校に通うことになりました。
――米国の学校での生活はどうでしたか?
最初は言葉に苦労しましたが、非常に自由度が高くて、自分のありたい姿を表現できると感じました。
日本にいると「子どもだから我慢しなさい」と言われる機会が多かったのですが、それがまったくなかったですね。
――海外に行って気づいたことがあったとか?
現地の子にウォークマンを見せたら、とても驚いてくれて、日本の技術力が非常に高いということを誇りに思いました。大人になったら、日本の技術を海外に発信していきたいとの思いがありました。
実際、当社に入社してからも最初の10年は海外での仕事でした。
同社のプリンタでギターのボディーをプリント(同社新本社に展示)
――海外での仕事はどのような内容でしょうか?
そのころ当社が始めたデンタル(歯科)事業の立ち上げを任されました。製品は、歯科技工士用の詰め物などの切削機でした。医療関係は新規参入で国内を回っても受け入れられづらいことから、まずイタリアとアメリカでビジネスを構築して「海外で採用されている製品です」と日本に逆輸入しました。
ちょうど日本の保険制度が変わり、製品は電話が鳴りやまないほど問い合わせをいただき、多くを販売。一時期は50%ほどのシェアを獲得し、現在もトップブランドです。
歯の詰め物などのデジタル加工は、これまでにない自動化技術で、一気に歯科技工士の仕事を楽にしました。
データを入力し切削機械を動かしておけば夜間に加工物が完成しているので、それまで睡眠時間を削って仕事をしていたユーザーからは「自動でできるので、夜ゆっくり寝られるようになった」と喜びの声をいただきました。
――自動化はプリンティングでも課題です。これらを活かした今後の展望をお聞かせください
当社の強みはデジタル化し自動化できるという点です。
サインも、壁紙も、プリンティングもデンタル事業のように、使う人を楽にしたいです。
そして製品を使って作ったアイテムで、その先にいる多くの人を「ワクワク」させることができればいいなと思っています。
<取材日:2024年1月15日>
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