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【工夫と創造この企業】オフ輪での静電除去剤入り「抗菌加工」を実現 高速オフセット商業印刷センター技師の三藤準二氏  

【2021年10月13日】高速オフセットは今年、オフセット輪転機で印刷物へ静電除去剤入りの「抗菌加工」ができる技術を開発し、提供を開始した。
従来は枚葉機での抗菌ニスを使用した提供だったが、これを改善した同社。その経緯や技術に対する方針などを聞き、コロナ禍でもチャレンジする会社の秘密を探る。
今回は、この技術を開発した同社印刷本部 商業印刷センター技師の三藤準二氏に話を聞いた。

 

オフ輪での「抗菌加工」実現

――貴社のご紹介をお願いします
当社は1986年設立の毎日新聞グループホールディングスの子会社で、新聞用の折込チラシを中心にカタログやポスター、POPなどの商業印刷を得意としています。
商圏は全国で、最大1件2000万部のチラシを受注することもあります。

技術にチャレンジするのが好きな会社で、ただ印刷をするのではなく「こんなものがあったら?」と常に考えながら仕事をしていくことを入社時から叩き込まれました。
そういった意識の中で開発した新技術の一つが、オフ輪による「抗菌加工」です。

――「抗菌加工」の開発はいつから始められましたか、そのきっかけは
2020年4月ごろです。
大きなきっかけは、やはり新型コロナウイルス感染拡大で、営業担当から「チラシを抗菌仕様にしたいけれど、大量に印刷するにはオフセットの枚葉機では時間がかかる上に高価になる。輪転機で一貫してできないか」との依頼を受けたことからです。

――これまで輪転機ではできなかったのですか
オフ輪の場合、8色機で表裏各4色を載せるのですが、抗菌ニスを印刷するために1胴増やすことが難しいのです。

そこで輪転でどうやったら簡単にできるかを考え、さまざまな方法を試し、シリコンコーターなら塗布できるのではないかと考えたのです。
そこから抗菌剤メーカーに連絡し、さまざまなタイプの抗菌剤のサンプルいただいて、その中から塗布可能なものを探りました。
抗菌剤の銀イオンは、静電除去剤の成分界面活性剤で固まってしまうのが一般的です。ただ、同じ抗菌剤でも、成分の異なるものがあり、さまざまに調整をしながら、化学メーカーさん協力のもと、印刷を実現していきました。
完成するまでには、変色するものや固まってしまうものから、惜しいと思えるものまであり、かなり試行錯誤しました。


静電除去剤入りの「抗菌加工」でつくった「ますちょ」

――仕事終わりにこれを実験する感じですか。大変ですね
仕事終わりや、仕事の合間という感じです。
上司から言われているのが「断る理由を考えるな」という言葉。営業担当は必死で仕事を取ってきてくれるので、工場はそれに応えていこうと思っています。
自分自身もこういった実験や開発が好きだからやっているというのも大きいですね。
もちろん失敗もあり、損紙を大量に出したこともありました。

 

チャレンジが好きな企業風土

――あらためて製品の特長を教えてください
静電除去液に抗菌効果を付加しているため、印刷の風合いを変えずに抗菌できます。一般的な抗菌ニス印刷はテカリが出やすく、印刷物の風合いが変わってしまうので、その問題も解決しています。
さらに抗菌製品技術協議会が発行するSIAA認証済を付与しており、印刷物にSIAA認証マークを付与できるのです。また既に特許登録済みです。

――用途はどのようなものになりますか
当然、チラシやカタログなど当社が得意とする商業印刷の分野での使用は想定しています。
特にコロナ禍では、街頭で渡すチラシやポスティングチラシ、ラックなどに置いてあるカタログなどは受け取ってもらえない傾向にあります。
そこにSIAA認証マークが付与されることで、安心して受け取ることができ、広告がしっかり効果を発揮できると考えます。
このほか、加工方法は考えなければなりませんが、名刺などで採用いただけたら嬉しいですね。
チラシやカタログ、名刺に抗菌を使用することで、その企業が「ユーザーのことをしっかりと考えている」というメッセージを発信できるとも思っています。

――実際の採用事例は
すでに小学生向けの新聞で採用されました。あとは大手メーカーのパンフレットでも採用いただいています。

――このほか今後、開発されたいものや現在ある貴社の技術などは
技術が好きな会社ですので、他社がしないことを先駆けてやろうとは常に考えています。
すでに開発している技術では、輪転で「白枠なし、裁ちなし」のチラシを作る技術もあります。従来の断裁による四方白枠なしの場合、高価な印象を与えますがサイズが他のチラシに比べて小さいので、まぎれて見逃されてしまうという心配がありました。
この「白枠なし、裁ちなし」の場合、大きさが同じなのでその心配がありません。

当社は印刷機同士を連結可能で、さまざまな加工を得意としていますが、これらにより、のり閉綴じや四方断、ミシン目・ハガキ貼りなどの後加工も印刷と同時にできるなど、他社にはない技術を培ってきました。
このほか、コダック社製の「PROSPER(プロスパー)」などのデジタル印刷機も率先して導入しており、付加価値を重視した仕事を請け負っています。


導入しているデジタル印刷機

印刷輪転機は大阪府堺市に6台、神奈川県海老名市に2台あり、その工場でしかできない技術も多くあります。
当社は本当に昔からそういった技術が大好きで、チャレンジするのが好きなのです。
景気や災害などの外的要素で、チラシが減った時も当社は影響が少ないのです。それもこういった他にはない技術を持っているからだと感じています。

失敗も多いですが、今後も挑戦を続けて、お客様の役に立つような製品開発を続けていきたいと思います。

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