【2021年6月21日】コロナ禍でもしっかりと収益を上げる会社はある。今回紹介する水上印刷もそのひとつで、2020年も含めて10期連続増収増益という印刷業界では驚異的な業績を記録している。
河合克也社長は「印刷を中心とした別の企業に作り変えた」という。どのように会社を作り替えていったのか、革新的な経営にフォーカスし話を聞いた。
――縮小していると言われる印刷業界で10期連続の増収増益はすごいですね。
ありがとうございます。コロナ禍における逆風は本当に大変でしたが、「One MIC」として全社員がひとつになり、お客様への提案・改善活動が実を結びました。前期は過去最高益で、最高の決算内容でした。10年前に比べ売り上げは2.7倍になっています。
――好調の理由とその施策は?
当然、理由はあります。それは当社が変化を続けてきたからです。
当社の業態は基本的にはBtoBなので、お客様への提案内容と提供価値が変わったということです。
注力した施策に関して言えば、お客様の伸びている分野に対して積極的にビジネス活動を行うということです。例えばコロナの影響を大きく受け、お客様としても活動が止まっている分野にいくら仕事を求めても、そこに何もありませんから、必要とされている分野を見極め、そこでビジネスを展開するだけです。
――簡単そうに見えて難しいことです
そうですね。でもコロナ禍で、必要とされるものが非常に際立っていると思います。例えば感染拡大や緊急事態宣言で表立って「集客できない」「販促できない」というお客様が増えたとしても、ここには新しい仕事が発生しています。
また、コロナに応じた形で新たに脚光を浴びた事業や業態には着目しています。外食ならテイクアウトやデリバリー、そして、あらゆる業種においてオンライン事業などは伸びており、ここにも大きな需要が発生しています。
外部環境の変化を見極め、きちんと前進している分野に着目する。そして、リソースは限られているので、そこに選択と集中をしていくということです。
――業務の内容が変化してきた?
はい。実際、売り上げの中で印刷の割合は減少し、3割ほどになりました。
しかし、もちろん印刷を中心とした周辺事業が、我々のビジネスの柱になっています。
一般的に不況になると、印刷も含めた販促予算が削られますが、一方で削られないものもあります。例えば、顧客満足度を高めることにつながるオペレーション費用や人件費などで、これはなかなか削ることはできない。
ただし、もちろん売上状況に応じて人件費の見直しやアウトソーシング費用の見直しを図るケースもあり、全体ワークフローの効率化を求める声があります。特にコロナ禍では、非効率にメスを入れていこうという動きがあるので、そこに我々がお手伝いできる部分が多くありました。
――そのサービスを印刷会社が提供できるものなのですね
それは可能です。効率化を提供するために、企業のあり方を変えてきました。10年ほどで、印刷を中心とした別の会社に作り変えたと言ってもいいかもしれません。
今も単純な印刷会社とは異なる形のサービス提供は常に探っており、そうでなければ10年連続での成長はできませんでした。
また、当社では常に「フルサービス」の提供を行っています。
最近では、「SPSモデル」と言い換えていますが、この「SPS」とは、「Sサービス-Pプロダクト-Sサービス」のことで、プロダクト(主に印刷加工)を中心に置き、フロントエンドとバックエンドのすべての業務・サービスを提供していくことが顧客体験価値を高めていくという考え方です。
――前後のサービスがついています。その意味は?
それを説明するのに、近年のビジネスで大切にしているキーワードをいくつか紹介させてください。
まずは「顧客便益」。ここ2年くらい注目を集めているDXとは「顧客便益」を伴う体験をデジタルで行うものと考えています。
世の中の動きは「物を買う」から「体験する」や「効果を買う」に変わってきています。カーシェアリングやAirbnbなどの民泊サービスは、物を所有するのではなく体験・効果を買うと言っていいでしょう。
特にBtoBビジネスの我々は「いかに効果を売っていくか」を考え、実行していかなければなりません。また、その効果も「計測可能にしていかなければならない」と考えています。
お客様は非常に具体的な「便益」そのものを求めていると感じます。そこでプロダクトを中心に、前後のサービスと融合させ、フルサービスで提供しているのです。
もう一つは「つながり性」です。ネットワークやコネクテッド、結合と言い換えてもいいものです。
我々が今スマホを見て得ているものは、スマホそのものではなく、つながっている向こう側の情報やサービスでありこの「つながっている」ことが消費者体験として当たり前になってきている。
また、データもつながればつながるほど価値を持ってきます。
例えば私の氏名の「河合克也」という言葉だけではそれほど大きな意味を持たないけれど、そこに「肩書」「住所」「家族構成」「購買行動」…と関連のワードや履歴がつながれば、その意味は大きくなっていきます。
このつながることが当たり前の社会で、どうサービスを生み出していくかということが大事になっています。
そして次に「変種変量」。デジタルのいいところは「好きなものを好きなだけ」「0から無限まで」ものに制限されず成立します。例えば音楽でも、フィジカルに制限される昔の販売モデルではアルバムやシングルなどパッケージ化して売っていたものが、デジタルサービスの出現により、1曲だけを取り出して購入できる、あるいは月額聞き放題のサービスがある。デジタル時代のユーザーは、当たり前に変種変量に慣れています。
フィジカルのサービスでも、物やオペレーションに制限されずに、欲しいものを欲しいだけ手に入れられる顧客体験の「変種変量」が求められていると考えています。
お客さんはあまたあるデジタルサービスに慣れている。「便益」「つながり」「変種変量」が前提となっている顧客に対しては、すべてを実現して届けることが必要になると考えます。
水上印刷は、デジタルとフィジカルの融合を実現する「SPSフルサービス」で、それらを生み出せる会社になっていると考えます。
――では水上印刷はどのような便益を顧客に届けているのでしょうか
私たちが届ける便益は「時間創造&PL改善」で、当社は「時間創造&PL改善カンパニー」です。
「時間創造」は、簡単に言えばお客様に時間をつくるということです。
現代社会では、時間が最も貴重な資産になっており、お客様へ時間を提供できるということは、大きな価値になります。
例えばBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)は、お客様を面倒くさい時間から解放する一つの形です。
「PL改善」は、PL(損益計算書)を改善すること。
当社では、お客様は印刷物を欲しがっているわけではないと考えます。印刷物を含めたオペレーション全体の効果を買っていると考え、PL改善に向き合っています。
工数やリードタイムの短縮により、顧客の時間を創造し、コストの最適化と売上拡大を実現する「効果の提供」によって顧客のPLを改善するというのが当社の事業だと思っています。
――印刷会社というよりはコンサルや広告代理店になっている?
もちろん印刷は中心に据えています。ただ、印刷だけのQCD(Quality、Cost、Delivery)では顧客便益や体験価値を上げられないとの考えです。
プロダクトだけでは顧客に貢献できないので、どこに課題があるかを見つけて、そこにサービスを提供することを目指しています。
製造業というのは世の中に貢献できる重要な業種です。さらに今まではできていなかったビフォアーとアフターのサービスをつくり込んでいくことで、顧客に提供できる価値を上昇させています。
――前後のサービスでプロダクトの価値を上げることが必要なのですね
はい。ビフォアサービスでいうと、その代表的手段の一つがシステム化です。例えば問い合わせや受発注の手間をいかに削減していくか。これまで顧客内部の部門を横断する情報連携や、当社とお客様との間で生じていた電話・FAX・メール・Excelといったものをシステムに落とし込んで省力化する。
合わせて、システム化をしてしまうと制限される柔軟なアナログ的な相談窓口として、当社社員がお客様のオフィスや工場に常駐しても良いと考えます。
また、アフターサービスでいうと、利用地点に届ける物流や、問い合わせ窓口を代行するコールセンター、あるいは現地への駆け付けサービスとなるフィールドサポートなどが挙げられます。
プロダクトを中心にこうした業務を一貫させることにより顧客便益が向上していきます。
――それには顧客の仕事を知らなければならない?
もちろんそうですね。我々はお客様以上にお客様のことを知る必要があります。また、常駐などを行うことで、お客様が対岸にいるのではなく、一緒に仕事をしている感覚になれば、「必要数」「製品設計」「ボトルネック」がわかり、本来あるべき業務フローが把握できます。それがフロントエンドのサービスとして私たちの仕事につながり自動的に当社に発注いただけるというのが理想です。
また自社内でオペレーションできる領域を拡大していけば、PDCAを回しながら改善を繰り返してフローを育てていくことができ、お客様にとっても大きな競争優位を持つことにつながります。
――これだけ大きく会社の在り方を変えて、それも基本的に社員が新事業を行って、最初からうまくいきましたか
当然、トライ&エラーの繰り返しで、失敗も多く経験しています。
最初は素人が行うわけですから、慣れていれば2手3手で済むところを、10手くらいかかって実現した事業もありました。あっちにぶつかり、こっちにぶつかりで成長していくのは当然と思いますし、最後に成功していれば良いんです。それを会社が許す体質でなければ、会社の成長もないと考えます。
成長する企業とそうでない企業の差は、やるかやらないかです。どのつまずきも、会社が傾くような大失敗にはならない、ということは、本来はほとんどリスクなんてないんですから(笑)。
――新しいサービスには、新しい知識や技術を持った人材が必要ですが、どのように確保してきましたか
基本的には、社内から責任者を出します。
ICT部門もプロパーの社員を中心に勉強して立ち上げましたし、フルフィルメントに関しても責任者は元印刷のオペレーターです。
そして、ここに外から強力な経験者が加わってくると、チーム全体として強化されていきます。
新事業を起こす場合は、「カルチャーフィット(社風適正)」か、「スキルフィット(能力適正)」かで、どこの会社も悩むところでしょうが、当社も強いカルチャーを持っているので、これまでは「カルチャーフィット」のメンバーが先頭で旗を振って、そこにを「スキル」が加わってくるという体制を優先させました。
また「スピード&フレキシビリティ」も大事にしています。新規事業は安定的な仕事ではない、さらにお客様は短納期やカスタマイズを実現してほしい、でもこれは非常に大変。だからこそ、会社のイズムを持ったメンバーが立ち上げることが重要だと思います。
そのあとでキャリアを入れて、事業を安定化させていく方が、しっかりと事業が固まります。
新規事業を多く立ち上げてそれが成長したこともあり、当社ではここ3年でキャリア採用を50~60人しています。このスキルを持った方たちを、社風に融合していかなければなりません。
――教育はどうされていますか
教育、人づくりには力を入れており「日本で一番勉強する会社」を目指しております。
「年間、200時間、就業時間の10%を自己投資しよう」と呼び掛けており、研修費用は全額会社負担で100%会社がサポートします。
また評価制度では、習熟度を表す練磨表を取り入れており、その社員の仕事に必要なスキルを書きだし、その習熟度を、自身と上司が評価します。項目は100から150個に上ります。
――今の事業内容でキャリア採用が増えればIT系の人材が多くなるかと思いますが、ITは給与が一般的に高額です。この格差はどう埋めていますか
キャリア採用を行う中で、これまでの印刷会社とは異なる給与制度も採り入れました。もちろん、社員の平均給与は10年前より上がっていますし、一般的な企業の給与よりは高い水準になってきています。中には1000万プレイヤーもいます。
もちろん、売り上げが伸びて、利益が伸びて出なければこのようなことはできないので、そのサイクルをしっかりと回すビジネスモデルを設計しています。
私は今後、日本社会は人が流動化すると考えています。当社はその中で優秀な人材が集まる受け皿になりたいと思っています。
――昨年完成した新本社、また日本一きれいな工場というのも、そういった受け皿を目指す上での必要事項だったのでしょうか
新社屋も魅力ある会社をつくるための環境の一つです。
建設が始まった2018年は、採用が売り手市場で、当社としても採用がボトルネックになると考えていました。
社屋は五感を意識し、ガラス張りで仕事中にも有線放送が流れ、1階ではアロマを用意。夜はバーになるスペース(現在は使用中止中)があるなど、社員同士が「ナナメの関係性」を強化できるように工夫を施しています。
これにより、コミュニケーションを大事にし、意思決定を早くする効果が出ています。
本社はカジュアルエブリデイ、工場も「日本一きれい」を提唱することで、従来は当社を志望しなかった人材が来てくれることに喜びを感じます。
――コロナの影響は
お客様の分野の中では、やはり「外食」が厳しかったですね。あと弊社のクライアント比率は大きくはないですが、「交通」「ライブ・エンタメ」関連も厳しかったと認識しています。
逆に、「デリバリー・テイクアウト」「オンラインサービス」「モバイル関連」では大きな需要が生まれました。
最初にも申し上げましたが、どんな世の中になっても、前進している分野に注力し、一緒に成長していくことが重要と感じます。
――アフターコロナの印刷業に向けて提言やメッセージを
当社の思いとして申し上げますが、シェアよりも、きちっとお客さんに向かい合うことが重要です。「1%のお客様に100%のサービスを」と常に言っており、事業を最適化し、便益体験をフルサービスで提供。これらによって社会課題を解決していきたいと考えています。
ぜひ、当社で一緒に働きたいという方には、やりがいのある仕事をとそのチャンスを作っていきたいですし、当社が未来を変えていけるようにさまざまな施策を実行したいと思います。
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