【2026年2月26日】印刷・制作業界のDXは、「思い返せば『早すぎた構想』から始まっていたのかもしれない――。そう語るのは、印刷・制作業界向けのシステム開発とBPOを手がけ、ソフトウェア事業を進めてきた浮田英治氏だ。

同氏は近年、大手保険会社向けに外交員用スマートフォンアプリと管理システムを構築したほか、大手不動産会社向けにはチラシの受発注をWeb上で完結させるシステムを開発した。校正レスの自動組版かつ、発注者の氏名・TEL・画像など可変要素を組み込み面付まで自動化し、全体の工数を約8割削減できた事例もあった。
さらに某大手店舗チェーン向けには、約400ページに及ぶ店舗運営マニュアルをWeb制作システム化し、印刷会社側の制作作業を不要とする仕組みを導入している。いずれも「印刷物を作る前提」を問い直す取り組みである。

2007年当時、浮田氏は印刷関連のソフトウェアメーカーに在籍しており、「サーバーサイドパブリッシング」や「校正コストゼロ」という考え方をすでに提唱していたが、当時の印刷会社からは「考えが追いつかない」という反応も多かったという。
その頃は「Web toプリント」や「オンデマンドプリント」という言葉自体が新しく、色が合うのか、品質は担保できるのかといった不安が先行していた。そもそも、紙の前段階にあるデータ構造を疑う発想が、業界にはまだ根付いていなかった。
1990年代後半から2000年代初頭にかけては、自動組版エンジンを使い、校正済みデータをデータベースに戻して再利用する試みも行ってきた。自動組版による通販カタログ・販促物制作などである。昨今はすっかりWebファーストが広まってきたが、その昔は印刷物の校了済み情報が正で、それを再利用する事が「デジタルの良さだ」と浮田氏は言う。

現在では、組版そのもののボリュームは確実に減少し、受発注や工程管理の自動化が現実のものとなっている。不動産の事例では、チラシ発注のやり取りがメール添付からWebシステムに移行し、印刷会社側の作業負担が大きく軽減された。工程管理にはQRコードを使い、作業状況をGoogleスプレッドシートで共有するような、難しい技術を使わずともワークフロー全体を楽にする工夫が広がっている。
こうした変化を支えているのが、ベトナムを活用したオフショアシステム開発・BPOだ。同氏は40回以上ベトナムを訪れ、開発と制作の現場を築いてきた。2014年当時は円高で人月20万円~という水準だったが、今は円安もあり上昇傾向にある。
通信環境の改善や、失敗も含めた過去事例の共有により、オフショア開発の精度は大きく向上した。日本での就業経験を持つ技術者も多く、50~70人規模の体制を組める点は大きな強みだ。
さらに近年はAIの進展により、現場環境は速度が上がり省人化するなど大きく進歩している。DX・AI活用の進展を最も強く感じた事例として、浮田氏は画像処理BPOを挙げる。2018年には40人いたPhotoshopオペレーターが、現在ではAI+5人程度で回せる案件もある。

ベトナムのオフショア開発は精度が向上し数十人体制の組織を組める(写真はイメージ)
一方で、「グランドデザインを描き、方向性を決める役割は今も人間にしかできない」と浮田氏は強調する。管理や指揮を担う人材の重要性は、むしろ高まっている。
ベトナム社会については、「エネルギーを感じる」と語る。経済成長率は約7%、人口は1億人を超え、ネットとスマートフォンが急速に普及・浸透した。食文化やアニメなど日本文化への親和性も高い。今後はIP商材やECシステム、社会インフラと言ってもよいバイクでの配送を活用した新たなビジネスにも挑戦したい考えだ。ジャパン・ベトナムフェスへの出展も調査・検討しており、印刷会社と連携した海外展開も視野に入れる。
30年にわたり業界を見続けてきた浮田氏は「印刷会社がDXで最も苦労するのは、技術そのものではなく、考え方を切り替えることだ」と語る。
「AIや自動化は避けられない流れであり、印刷やデザインに関わる人間は必ず触れておくべき。印刷会社は情報産業であるという本質は変わらない。ただし、アウトプットの形は、これからも確実に変わっていく――」浮田氏はそう締めくくった。
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