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【デジタル潮流】日本HP 大判プリンタのオールインワンモデル「HP Latex R530」 コンパクトで自動化を意識した仕様 セルカムで展示

【2025年10月23日】日本HPは今年5月、大判プリンター「HP Latex」シリーズの新製品を発表した。中でもリジッド(ボード)素材とロール素材の両方に対応するオールインワンモデル「HP Latex R530」は発表直後に発売し、すでに導入事例もあるという。
担当者からは「実機を見れば良さが分かる」との声をいただき、製品を展示している販売会社セルカムの「ワークフロースタジオ」を訪問した。

 

驚きのコンパクトさ

「セルカム ワークフロースタジオ」は、東京都大田区のテクノフロント森ケ崎内にある展示・実演用のショールームだ。モノレールの昭和島駅から10分程度で、運河と海を望む周囲には町工場が点在し、施設内には他の企業の開発拠点が入居している。

「セルカム ワークフロースタジオ」のある東京都大田区のテクノフロント森ケ崎周辺は運河など水辺が広がる

スタジオのドアを開くと目の前に「HP Latex R530」(以下R530)が設置されていた。
まず驚くのはそのコンパクトさだろう。「ぜひ実機を見てほしい」と声をかけてくれた日本HPの大判プリンター事業本部の秋山裕之本部長の言葉どおりで、従来機「HP Latex R2000」(以下R2000)の半分程度の設置面積に見える。

写真で見れば一目瞭然だが、セルカムシステムソリューション部の日下部賢一係長に操作をしてもらった際の比較でこれほどの違いがある。これで出力幅は1630㎜と同じというから驚きだ。

「 R530」(左)と「R2000」(右)ではこれだけ大きさに違いがある

「R2000」との違いを訪ねると、日本HP大判プリンター事業本部の霄(おおぞら)洋明プリセールス 兼 エバンジェリストは「ヘッドが異なるので出力速度が違います。大量に出力したいというお客様には『R2000 』を、コンパクトで便利に使いたいお客様には『R530』をお勧めしています」と答えて、ヘッドを見せてくれた。
「R2000」は大型のヘッドでスタガ配列、「R530」もスタガ配列だがコンパクトなヘッドになっている。

自動化への第一歩

さらに注目すべきはその取り回しの良さだ。
この「R530」は、ロールとリジット(フラットベッド)での出力の両方が可能ないわゆるハイブリッドタイプの大判プリンターで、HPではこれを「オールインワン」と呼んでいる。
付属のテーブルを取り付ければ「リジット」となり厚さ50㎜までのボードのプリントが可能。外せばロールを巻きだしての出力に対応する。
このテーブルの取り付けと取り外しの時間はわずか1分ほどで、テーブルに脚部にはキャスターが付いており移動も楽々で、折り畳みもできるため使用しない場合には壁際などに収納しておける。
これでいて、高品質を保てるのは、精度の高い搬送機構を持っているからだ。

テーブル部分は折りたたむことが可能で、脚部にはキャスターも(左)。切換えは1分ほどでロール仕様となる(右)

「リジット(フラットベッド)」使用では、搬送装置が自動化の効果を発揮する。一般的なフラットベッドでは、位置合わせをして置き、出力が終われば、これをオペレーターが排除し、次の素材を載せるという作業が必要だ。しかし「HP Latex R530」は搬送装置が付いているため、小型のボードなどは、セットしておけば搬送され、テーブルの上に排出される。オペレーターはある程度ボードの出力数が終わってから次の工程に移すといったことが可能だ。

ボードのフチなしプリントにも対応しており、カットしてからカッティングプロッタなどでの切り抜きをするのではなく、あらかじめ切り抜いたボードをプリントすることも可能だ。このため、カッティングプロッタが込み合っているときには「プリント→カット」、空いているときには「カット→プリント」といった工程の組み替えができるようになり、働き方改革の一助にもなるという。

ボードプリント用のバキュームは自動感知で、よくあるテープなどで目張りしてバキューム箇所をコントロールするといった手間も要らない。

ロールプリントの場合、用紙のセットは「曲がっていてもOK」で、巻き出しの部分と送り出されるヘッドの側にもセンサーがあり、曲がりや蛇行を補正する。「熟練者でなくとも使用できる設計」と霄氏は説明する。

曲がりを補正するセンサーがあり、メディアの入れ替えも楽々

 

素材対応と扱いやすさを追求

同シリーズには、ラテックスインクが搭載されているが、このインクは対応する素材が豊富だ。溶剤系プリンタでよく使用される塩ビやターポリンはもちろん、段ボールやプラスチック、スチレンボードなどへの出力が可能だ。セルカムが8月に行った「Digital Printing Expo 2025 Tokyo」では、カルプ素材にもプリントして多くの来場者の注目を集めた。

対応素材が幅広いUVプリンタと比べてどうなのだろう?と思ったが、取材中にプリントしてもらったサンプルを出てくるそばから擦っても色落ちしない。また、UVインクに比べ、被膜が薄く、木目や革目などの風合いを生かしたプリントを実現できる。

木目の風合いを生かした出力や(左)、段ボールへのプリントでは折り曲げでもインクの剥がれがない(右)

色のコントロールでは、「HP Pixel Control」と内蔵の分光光度計「HP Embedded Spectrophotometer」を採用し、少ないパス数でより安定性と一貫性のある色を表現する。
霄氏は「従来インクジェットプリンタはデジタルであってもカラーパイプライン上で4色分版の後に各色インクセットにマッピングされていました。この『R530』は『Designjet Z9』から搭載が始まった『HP Pixel Control』によってピクセル単位で各色のインクをダイレクトにコントロールします。これにより、綺麗なソリッドカラーと滑らかなグラデーションなどを『自動』で実現しています」と自信を見せる。

操作パネルはタッチ式で、センサーが読み取ったメディアに、ドラッグ&ドロップでジョブを落とし込んでいき、大きさや素材を選択するだけで出力可能。
メンテナンスは、自動再循環システムやプリントヘッド自動クリーニング機能を搭載しており、安定稼働をサポートする。
こういった点でも、「職人」を必要としない、省人化や自動化を意識したプリンタと位置づけられる。

操作はタッチパネルで、ドラグアンドドロップなど直感的に可能

設計思想の進化

従来機の「R2000」は、筆者も導入されている企業を取材したことがあるが、生産性の高さや品質の高さが評価される反面、設置場所を選ぶサイズのため、導入企業は限られる印象があった。
「R2000」の発売が2018年で、それから7年が経過し「さまざまな面で設計思想が進んだ」と秋山氏。霄氏も「バキュームや操作パネルの位置、ソフトの使いやすさなど、細かな進化が新型プリンタの良いところで、随所に従来品との違いを感じ取ることができます」と話す。
展示会やデモンストレーションで同機を操作する日下部氏は「単純に機体が小さくなったことで、操作する際の歩数が少なくなった。痒い所に手が届くという言葉のとおり、必要なものが必要な場所に配置されており、1日操作した時の疲れ方が全く違う」と使用感を述べる。

見本機が日本に上陸したのは、5月に大阪で行われた「SIGN EXPO 2026」の直前で、これが国内での初お披露目となった。その後は、8月の「Digital Printing Expo 2025 Tokyo」で実機実演し、いずれもHPの担当者が「昼食に行けなかった」というほどの注目ぶりだったという。

なお、同機は現在行われている「サイン&ディスプレイショウ2025」(10月22日~24日、東京ビッグサイトGMX)のセルカムブースをで公開されている。5月発表の「HP Latex 730」「HP Latex 830」両シリーズも国内初出品を予定している。
ここでもHP「R530」は、展示の目玉となりそうだ。

左からHP 小林宏之氏、同秋山裕之氏、セルカム 日下部賢一氏、HP霄洋明氏

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