【2017年4月18日】先週の土曜日の朝、住宅街にいきなり大行列ができた。
普段は通学・通勤のない土曜のこの時間帯は閑散として、人通りもまばらな場所だが、この日は100m以上の長い行列ができており、さらに最後尾に続々と人が続いていた。
「こりゃ一体なんだ?」とびっくりすると同時に、ジャーナリスト魂(野次馬根性ともいう)に火が付き、とりあえずスマホのカメラでこの様子を収めた。
「ラーメン屋でもできたのか?」「それとも健康食品系の怪しいセミナー?」「まさかのハーメルンの笛吹き?」
などと考えながら、角を曲がってもまだ続く行列の先頭に回り込んで見ると、とある新聞販売店の入り口まで人がずらりと並んでいた。
怪しい人と思われるのを覚悟で
「すみません。近所の者ですが、何かあるんですか?」と尋ねてみたところ、本当に怪しみながら年輩の男性が答えてくれた。
「新聞に挟まっていたチラシと引き換えに鉢植えのペチュニアがもらえるんだよ。あんた誰?」
あんた誰?には「マスコミの方から来ました」とジャージ姿で答え、素早くその場を去った。
花をもらえるチラシによって、早くからこんなに多くの人が並んでいるのだ。
「なんと心の優しき花好きたちよ」というところが今回の本題ではない。
そう、ここでまず注目しなければならないのは並んでいる年齢層。
ほぼ70代が中心で、若くても50代がチラホラいるかどうか(記者推計)。
2016年にNHK放送文化研究所が発表した「新聞の行為者率」(平日・新聞を読む行為を1日のうちにしている率)を見ると、男女ともに50%を超えているのは、60代と70代以上のみ。
それも40代になると、行為率は男性が38%、女性が40%前後とガクッと下がる。
このまま10年経過すると、どうなってしまうのだろうか?という話はさまざまなところで語られているので、あまり深追いはしないが、「若者の新聞離れ」に代表される新聞業界の現状と未来は決して明るいものではないと思われる。
だからと言って、若い世代もニュースを読まないわけではない。
新聞通信調査会の「第9回2016年メディアに関する全国世論調査結果」では「新聞を読まない理由」として以下の結果が出ている。
新聞通信調査会「第9回2016年メディアに関する全国世論調査結果」より「新聞を読まない理由」
皆、ネットニュースで代替しているし、好みのニュースを素早く得る方法としては、アプリから通知を受けたりしている。
ここで新聞業界が考えなければならないのは
①情報収集に優れているので、ネットニュースへ配信する際の単価を全社が上げる
②読者はいるので「感情」に訴える媒体(広告も含め)を開発する
③60代、70代の寿命をメチャクチャ伸ばす
というところだろうか。
③は新聞で明けの力では、難しいので他を行った方がいいようだ。
速報性や便利さでは、ネットに負けてしまった紙の新聞だが、社会的地位は圧倒的に高いというのは肌身で感じる。
悔しいけれど、未だにウチのサイトに載るより、業界紙に掲載される方をありがたがる方が多い。自社ホームページやSNSにも「〇〇新聞に掲載されました」と喜んであげている人がたくさんいる。ウチの時はそんなに喜んでなかったぞ(笑)。
正直、読者数も、拡散性も、サイトの方が上回っていても、やはり印刷物という形になる方が喜ばしくも、誇らしいという気持ちは厳然としてあるのだ。
それだけ新聞掲載、紙の媒体の方が「信頼感があり」「感情を動かされる」のだろう。
そのあたりを掘り下げていけば、新聞の新しい媒体価値が出てくるのではないかと思っているし、そういった取り組みをしている新聞社もある。
一方の新聞販売店も、新聞を配達するという地位の高さを活用した新たなビジネスに取り組めるのではないだろうか。
新聞社の名前を表示したジャンパーやブルゾンは地域から信頼され、ものすごく価値が高いものだ。一般的なポスティングの配達員は、ポストに近づくことすら怪しまれるというが、新聞配達員であればどうだろう。
土曜の朝に見た行列でここまでとりとめのないことを書いてきたが、チラシではなくポストに投函されたチラシや、駅前でもらったティッシュ、スーパーのクーポンだったら、これほどの人が並ならんだかどうか。
やはり、新聞の社会的地位に安心感を持ち、多くの地域住民が並んだのは間違いない。
販売店に聞いたところ、鉢植えの配布は、半年に1度ほどの間隔で行っているそうで、毎回すべての鉢がなくなるそうだ。
今回も500鉢を用意し、すべてが配布された。
同販売店の配達件数は約3000だそうで、6分の1がこのイベントに参加した計算になる。
印刷はデジタル印刷によるローカリゼーションや、パーソナライゼーションによって新たな力を獲得し始めたというが、従来からあるチラシ1枚でも地域特性や年代属性とマッチすればこれほどの力を発揮する。
そんな、新聞や折込広告の力と、それを支持している人たちを改めて確認できた朝だった。
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