【2016年5月13日】今年3月、花王 テクノケミカル研究所がVOC(有機溶剤)レス設計で環境負荷を低減した「水性インクジェット用顔料インク」を開発。これにより花王は、産業印刷分野への新規参入を明らかにした。また、同技術を使用しグラビア印刷機での印刷にも成功した。同社ではこれらの技術を「drupa2016」で展示する。
今回は開発を担当している花王の森山伸二課長(ケミカル事業ユニット情報材料事業グループ画像材料営業部)に話を聞いた。
花王がインク開発をし、産業印刷分野に参入されるということに驚きました。今回の経緯は?
花王は洗剤や石鹸などを開発、生産していますが、これらには界面活性剤が使われています。私の所属する情報材料事業グループでは、凝集している物質を水になじませてほぐす洗剤のメカニズムを応用して、以前から「顔料をポリマーで包んだ顔料分散体」を生産し、さまざまな会社に提供していました。
ですから、当社としては一連の事業の一つと考えています。
VOC(有機溶剤)レス設計のグラビアインキとは、技術的にはどのようなものでしょうか
普通、水性顔料インクを使用した場合、乾燥しないとにじんでしまいます。これを花王のポリマー技術、分散技術、インク配合技術によりインクの濡れ広がりを向上させ乾燥性を高めることで、にじみを抑えるのです。
これにより、水性顔料によるインクジェット(IJ)印刷機での印刷や、VOCを使用しない水性顔料での軟包装印刷を可能にします。
軟包装印刷で水性顔料インキを使うことによるメリットは
まず、VOCを使用しないため、インキが危険物ではなくなります。工場自体に溶剤処理の設備や防爆仕様が必要なくなり、水の噴霧なども不要となります。この分、かなり工場設備のコストは抑えられます。
もちろん、環境負荷という点でも水性顔料は優れています。実際の工場でシンクラボラトリー様と共に印刷テストを行いましたが、廃棄時のVOC濃度は100ppmcと日常と変わらない値でした。一般的な油性グラビア印刷では印刷密度に依りますが廃棄時濃度2000ppmcほどになります。
グラビア印刷機ではどのくらいのスピードで印刷可能ですか
瞬間速度ではありますが毎分150mでの運転に成功しました。一般的な水性グラビアでは最大200m、油性では400mほどでの運転が可能なので、当社の水性顔料インクの場合、少から中量の印刷物での活用が可能です。
デジタル印刷機はシンクラボラトリーとの提携で開発していますね。現状は?
PET素材への印刷に成功しています。印刷スピードのターゲットは毎分30mですが、現状では毎分20mの印刷スピードを確認しています。このくらいのスピードなら少量向きのデジタル印刷機としては一般的な生産が可能です。色はフィルム用なのでYMCKに加え、ホワイトも用意しています。特色などは今後要望があれば考えたいです。
フィルムをテストしたいという希望も多く受けており、シンクラボラトリーとともに、できる限りこれには応えていきたいと考えています。
drupa2016での展示は?
残念ながら、dtupaでは技術展示で、実機の展示はありません。パネルや動画、サンプルのみで技術を紹介します。
日本語のわかる説明員がいますので、何なりと聞いていただければありがたいです。
場所は「ホール3 E36」です。
印刷はできているようでしたが
当社とシンクラボラトリーの両社が満足のいく品質には達していないということで、今回は実機の展示は見送りました。
せっかく見ていただくのですから、しっかりとした品質のものをお見せできればと思っています。
水性インクジェット印刷のサンプルはすでに完成している
それはいつくらいになりそうですか
シンクラボラトリーが2016年内にデジタル印刷機を発売する予定で、「TOKYO PACK 2016」(10月4日・火~7日・金、東京ビッグサイト)ではシンクラボラトリーのブースで稼動する様子をお見せできると思います。
抱負や今後の展望を
IJ印刷機ではこれまで、UVインクが中心でしたが、UVは臭いがあるため、食品などの包装には向いていませんでした。一方で従来の水性インクはフィルムには印刷できませんでした。
当社の水性インクジェット用顔料インクはこの問題を解決できると思います。また、グラビア印刷でも環境負荷の低く、工場設備の投資を抑えることができるようになります。
できるだけ早く、これらを製品化し、皆さんにお届けしたいと考えています。
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