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【デジタルプリント潮流】ソウブン・ドットコム オフ機廃止→2社のデジタル印刷機へ移行 月産80万枚を生産

【2024年12月23日】2024年は8年ぶりに「drupa」が開催され、多くのメーカーが最新のデジタル印刷機を展示。多くの人がデジタル印刷の未来を考える年となった。
その中で読者からは「実際のデジタル印刷の現場はどうなのか?」「デジタル印刷を使ったビジネスはどう進んでいくのか?」という声があった。
そこで「デジタルプリント潮流」のテーマで、改めて日本の印刷会社を取材し、その現状をレポートしていく。
第1弾はオフセット印刷機を廃止し、印刷をすべてデジタル印刷機にしたソウブン・ドットコムだ。

 

学術書・文献書の印刷が専業

ソウブン・ドットコムは、1939年木村誠一氏が活版印刷業として創業。終戦後、2代目の木村正義が「焼け野原で、日本が再び立ち上がるには、人と知力で復興するしかない。そのためには、教育であり学問が大事である」との思いから、学術書、文献書の印刷を専業とする印刷会社を興した。
現在の木村崇義社長は2017年4月に就任。2019年には「SOUBUN.COM」の展開を開始。2022年4月「創文印刷工業」から「ソウブン・ドットコム」に社名を変更した。さらに2024年、オフセット印刷機をすべて廃棄し、デジタル印刷機での生産のみに舵を切った。
今回は木村社長にデジタル印刷機の導入経緯やその成果、今後の展開について聞いた。

 

学会サポートの橋渡し役

――貴社のお仕事の内容をお教えください
学会誌や学術雑誌、論文誌の編集から印刷までを行う会社として創業されました。そこから派生して、学会の事務局や学術会議などイベント自体の運営、旅行業の登録もしていますので宿泊や飛行機の手配などもできます。

――2019年には「SOUBUN.COM」の展開を開始されました。これはどういったものなのでしょうか
「SOUBUN.COM」は、学会が媒体制作や事務局運営をサポートする業者を探す手間、提供サービスのリスク、情報取得の機会損失をなくすための次世代のプラットフォームです。学会紙や論文などの印刷から始まり、学会の運営までを任せていただくようになったことから、学会業務のアウトソーシング総合サービスをネットと連動して、しっかりとした形にしました。
当社がすべて行うのではなく、プラットフォームである「SOUBUN.COM」を介して、それが可能な会社に仕事をお願いして遂行してもらうシステムです。

ご依頼いただく仕事は、学会の運営や事務局などの規模の大きな仕事だけでなく、「エクセルの整理をしてほしい」「資料をまとめてほしい」「学会のホームページを作ってほしい」といった個別のサービスを求められるケースも多く、プラットフォーム上に依頼が来ると、それを自社もしくはパートナー企業様と一緒に解決するお手伝いを致します。
また、「GAKKAI WORKS」という金額オファー型のサービスもあり、これは「依頼内容」「希望金額」「納期」を入力すれば見積もりができます。

同社では学会などの事務局運営も行っている

――仕事の橋渡しができるということですね
はい。当社は歴史が古い分、多くの協力会社を知っており、印刷はもちろんイベントの会場設営や看板製作などをそれらの会社に依頼できます。学会誌の印刷をする会社はほかにもありますが、このような形で総合的な支援ができるのは当社の強みと考えています。
学術団体の先生や職員の仕事は、一般企業のマーケティング部や購買部とは違うので、何か依頼したいことがあっても「できるところを探す」のは手間。当社の場合、そんな先生や職員の方の「お困りごと」をすべて丸投げで依頼していただけます。

ソウブン・ドットコムは今まで研究者や学術団体職員が行っていた煩雑な作業を代行する

 

脱印刷ではなく根幹事業

――学会関連が主な事業だと、コロナの間は大変だったのではないですか
実はコロナの間でお客様が3倍に増え、従業員数もそれに合わせて3倍の人数になりました。
リアルの学会を開催できないことから、オンラインで開催したいという依頼が殺到しました。当時はまだオンライン会議のツールが一般的ではなく、皆さん苦労しておられました。
学会への参加申し込みシステムのほか、演題募集システムといった学会特有のサービスが必要ですし、それを理解して形にできる、橋渡しできる会社は少ないのだと思います。

――ベンダー(協力会社)の選定はどのようにされるのですか
まずは学術系が可能かどうかを実績を拝見して判断します。そして実際の仕事をお願いしてみて、うまくいけば引き続き仕事をしていただきます。逆にうまくいかなければ次回からは候補に入れないという流れですね。
こればかりはトライ&エラーを繰り返して選定しますし、それを長い歴史の中でやってきたので、当社しかできない学術専門のサポート企業という今の形があるのだと思います。

――お話を聞くと印刷以外の仕事が大きくなっている印象ですね。「脱印刷」と考えてもいいのでしょうか?
いいえ。それは違います。プリンティングは43%で、残りはそれ以外の仕事なので、印刷分野の仕事の方が少ないのは事実です。ただ、これは「脱印刷」というわけではなく、印刷会社のやるべきことに他の事業が入ってきているだけです。根幹の仕事は印刷であり、その生産現場である工場をなくすようなことは絶対にありません。

 

2社のデジタル印刷機を導入・比較

――富士フイルムビジネスイノベーションの「Revoria Press EC1100」とキヤノンの「imagePRESS V1000」「varioPRINT6220」を導入し、オフセット印刷をやめられたそうですね。その理由は?
当社の主要な顧客である学術団体は1,700ほど、その90%以上が会員1500人以下の団体なのです。つまり、印刷物も1500部以下が90%以上です。イメージは地下アイドルのグッズづくりで例えると分かりやすいです。少量・多品種で好みも細分化しているのですが、コアなファンは確実にいる。この状況を見て、オフセット印刷ではなくデジタル印刷に完全移行した方がよいのではないかと考え、数年前から試算し、導入を検討していました。

「imagePRESS V1000」と「Revoria PressEC1100」の2機種が並ぶ

――カラー機は「imagePRESS V1000」「Revoria PressEC1100」が1台ずつですが、この使い分けはどうされているのでしょう
基本的には同様の使い方をしています。2台同時に入れたのは、一社で全すべて揃えるとリスクヘッジできない部分があると考えたからです。
デジタル印刷機は入れてからもメーカーの保守が比較的多く発生するので、両社に高いクオリティと緊張感を持ってやっていただきたいとの考えもあります。
また、当社では修理の回数や1回にかかった時間までを記録しています。もう少しで1年がたつので年間の生産性や収益性の数字が出るところです。

 

生産自体よりよかったのは…

――それは素晴らしい取り組みですね。実際に使用してみて問題なく使えていますか?品質などは?
はい。デジタル機全体で月産80万枚を生産するなど問題なく使えています。生産が間に合わないなどの事態には陥っていませんし、オフセット印刷機がなくてもしっかりと仕事をこなしています。
品質も学術系であれば大きな問題は発生していません。特色(インクを調合した得意別な色のインク)の使用はできませんが、それをわかった上で使っているので問題はないです。
それに生産そのもの以外でも、よかった点があります。

モノクロ機はキヤノンの「varioPRINT6220」

――それは何でしょう?
オフセットのように熟練のオペレーターしか操作ができない、ということが無いので、シフトを組みやすくなりました。A全の重い紙や大きな版を持つ必要がないので、DTFのオペレーターが印刷と後加工を担当することもあります。
かつては忙しい時期になると、オペレーターの休みが取れず、かなり負担をかけていたのですが、今はしっかり休みがとれるようになりました。経営者としても、そういった勤務になってしまうのは「申し訳ないな」という気持ちが大きかったので、心理的負担も軽減しました。
印刷会社は「きつい・汚い・危険」と思われがちですが、デジタル印刷機は、そういった仕事のイメージを覆せると考えています。

――逆に不満な点などは?
あえて言えばですが、思ったよりヤレ(損紙)は多いですね。保守のタイミングがずれると汚れが出てくることがありますし、紙詰まりや紙のシワといったトラブルもあります。
メーカーでは、ヤレ分のカウンター料金控除はあるのですが、作り直しの時間やダウンタイムは結局、当社の負担になるものなのでダメージになります。
またオフセット印刷機の場合は、オペレーターの腕次第でヤレを少なくすることもできますし、機械の不調がある場合は、オペレーターが調整することができました。これがデジタル印刷機は、エンジン部分が完全にブラックボックスなので、オペレーターではどうしようもないのです。

 

お困りごと解決が第一

――オフセット印刷機を廃止してしまうことに社内で反対はなかったですか
若手オペレーターが悲しんでいたのですが、反対というわけではなく、機械への愛着の面での「寂しい」という気持ちだったようです。会社の設備を愛してくれることは、いいことですし、本当にありがたいのですが、当社にあった印刷機はもう20年前のもので、そのメーカーが撤退してしまったので保守もできない状態だったのです。
デジタルへの移行は待ったなしでした。

――今後の目標や事業展開などをお教えください
デジタル印刷への転換は順調なので、今後さらに台数を増やしたいと考えています。後加工機も充実させたいと思っており、無線綴じ機や三方断裁機をインラインで繋げるような省人化も進めていきたいです。

学術の印刷をやっている、イベント事業やっている、BPOをやっているという会社はありますが、学術団体に関する「あらゆるお困りごとを解決する手間を省く」というコンセプトのサービスプラットフォームを持っているのが当社の独自性です。
当社は学術関係のお困りごと解決プラットフォームとして、さらに成長していきたいと考えています。

SOUBUN.COM
https://www.soubun.com/

 

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